櫂三和
櫂は友達だ。高校になって少し変化した交友関係に再び転がりこんできた昔なじみ。
そのインパクトは凄まじくて、その昔胸の奥にしまい込んで無視してきた恋心を簡単に呼び起こしてしまった。
昔なじみだからか俺だけを側に置いてくれる櫂に自惚れそうになったときだ。
櫂に憧れて、ヴァンガードを始めたアイチが現れたのは。
別に櫂の交友を邪魔する気はないから口にも行動にも出さない。それにこんなにも櫂を慕っている子を無碍にできる奴なんて人間じゃない。
櫂も櫂でアイチを気にかけてるし、ヴァンガードをしない俺よりも伸びしろが計り知れないアイチの方を優先するのも分かる。むしろ離れた方がいいとまで思える。
けどなんでそれを口にしただけで櫂が怒るのかが分からない。優劣を付けた言い方が悪かったのか、それとも何か間違ってたのか。
「櫂‥‥‥‥?」
ゆっくり櫂を見る。俺たち以外いない教室。櫂はいつも以上に眉をつり上げて俺を射抜く。わけがわからない。
「お前は分からないのか」
「分からないって‥‥」
櫂はなんで怒っているか、という意味なのだろうか。それなら俺は分からない。けど、櫂の言い方じゃどうも俺のせいらしい。
櫂に嫌われたのだろうか、もしそうなら俺は生きていけないかもしれない。それくらい櫂の存在は大きい。
ぐるぐると頭を回る嫌な結末に焦りが生じる。そんな俺をみた櫂はため息をつく。
「‥‥‥俺は、お前が昔なじみだからとかいう理由で側に置いてない。それにアイチとお前なら三和、お前を優先する」
「へ?」
嫌な結末を吹き飛ばす言葉が聞こえて、思わず素っ頓狂な声を上げる。それはつまり、俺のアイチの方を気にかけているって言ったことに怒ったってことで‥‥‥
ああ、自惚れそうだ。櫂に限ってそんなことあるわけ無いのに。
「へー俺って櫂に大切にされてるってこと?やっぱ持つべきものは友達だなー!」
だから、笑って櫂が望むだろう言葉を並べた。櫂は俺にそんな気持ちもってない。持ってるのはただの友達という感情だけだ。
「馬鹿が」
短く小さな櫂の呟きに反応しようとすれば、異様に近い櫂の顔。唇に何かがふれる違和感。
キスされてると理解したときには本能的に櫂を突き飛ばしていた。ガタンと椅子が後ろの机に当たる。
櫂の顔は衝撃も気にしていないようだったが、まずいと思った。この顔を知ってる‥‥‥‥ファイトで相手を倒す時の、狩るものの顔だ。
後ろに下がろうにも俺の座ってた席は一番後ろで、すぐに壁にぶつかる。櫂はゆっくりと俺の前に立ち、俺を見る。同じくらいの視線のはずなのに、どうしてか見下ろされてる気分だ。
「か、櫂‥‥んっ!や、めっ」
さっきのように唐突に櫂はキスしてくる。今度は突き飛ばさないように、しっかりと両手を押さえて。短いキスを何度も繰り返してきて、正直泣きたい。
意味が分からない、なんで櫂にこんなことをされてるのかも、なんでこんなに嫌なのかも。櫂が、好きなのに。
ついに涙が出てきた、櫂が止まったのが目を閉じてても分かる。その隙をついて、思いっきり腕を振り払う。
自由になった腕で壁を押さえて、今にも倒れそうな体を支える。
「なんなんだよ‥‥‥なんで、なんでキスなんてっ」
キッと櫂を睨みつける。涙目だから迫力なんて無いなんて知ってるけど、それでも睨みつける。
櫂は何も言わない、ただ下を見ていて。
「なんか言えよっ!」
思わず声を荒げてしまう。もう訳が分からなすぎてどうにかなりそうなんだよ、お願いだから助けてくれよ‥‥‥理由を教えてくれよ。
「好きだ」
櫂が発した言葉に目を見開く。今、櫂はなんて言った?好き?櫂が、俺を‥‥?
有り得ない、何かの間違いだ。嘘だ。きっとバツゲームか何かなんだ、櫂が俺を好きなんてあるはず無い。
「言っておくが嘘じゃない。俺の側にいてくれる三和が好きだ」
「そ、そんなの、アイチだって」
そばにいるなんて誰にでも出来る。それはつまり誰でもいいってことだろ?
やめてくれ、期待させないで、自惚れさせないで。
「アイチは関係ない。三和だから好きになった、信じろ」
櫂の目がまた俺を射抜く。さっきと違って、不機嫌じゃない真剣な目。そんな目で射抜かれたらもう絶対に逃げられない。
「俺、男」
「ああ」
「アイチのほうがかわいいよ」
「お前もかわいい」
「っ!‥‥俺も、好っきだよ」
「知ってる」
ゆっくり、優しく抱きしめられる。うれしくて涙が止まらない。それでも離さないように、離れないように櫂を掴む。
隣にいてもいいんだよな。思いを隠さなくてもよくて、君の隣にいれる。
「幸せすぎて死ねるかも‥‥‥」
「馬鹿だな」
「うっさい!言っとくけど怖かったんだからな!」
そう言うと櫂は更に抱きしめる力をこめる。正直痛い。けど、なにか言いたいからこうしてるなら、待つ。
「‥‥‥‥お前が変な勘違いはするし、かわいい顔するのが悪い」
沈黙の中に響いた音は俺の顔を赤くするには十分すぎる破壊力で、思わず櫂の胸元に顔を埋めてバ櫂とつぶやいた。
愛情ショットガン
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