十代→ヨハン
時系列がおかしい
トントンと扉をたたく。何時もなら鍵もかかっていない部屋も今では固く閉ざされたままだった。
「十代」
その扉に向かってヨハンは語りかける。その扉の向こうにいる十代に向かって。
「でてこないのは勝手だから何も言わないけどちゃんと飯食べてるか?」
本当は出てきてほしい、でも彼は変わってしまった。
あの時ユベルと戦ったあの時から、十代は大人になった。
そして帰ってきた十代は誰とも会わないようにしている。
もうすぐヨハンは留学期間が終わり母校へ帰ってしまう。ヨハンとしては帰る前に一言でもいい、十代と話がしたかった。
けれどヨハンの思いもむなしく扉は固く閉じられ何人も通すことはない。
「前から言ってるけど俺は明後日島を出てアークティック校に帰るから、じゃあまた明日」
返事のないまま一方的な話をやめその場を後にする。
なぜ十代は俺達を拒否するんだろう。それがヨハンの最大のなぞだった。
異世界での事をまったく覚えていないヨハンは人伝でしか出来事を知ることができない。
しかし皆一様に思うところがあるらしくヨハンは気が引けて聞くことができずにいるのだ。
分からないのにずかずかと人の心に踏み入るのはあまり好きではない。
十代、今何してるんだろうなとヨハンはいつも元気な友人を思い浮かべた。
一方十代は立ち去るヨハンの姿をドアの隙間から見つめていた。
ここ数日、十代は外に出て翔や明日香とも軽くは話せるようになった。しかしヨハンだけはどうしても会って話したくないのだ。
ユベルとの超融合で十代は思考や性格が格段と落ち着きをもち今まで見向きもしなかった感情にも向き合うようになった。
そして知ってしまった。自分の中にあるヨハンへの気持ちに、それはあまりにも衝撃で十代はどうする事も出来ずに部屋に引きこもっているのだ。
十代の様子を見てユベルはため息をつく、ユベルは元々十代の中に潜んでいたヨハンへの愛情に気付いていた。
だからこそあの時自分の新しい依代としてヨハンを選んだのだ。
ユベルは十代に尋ねる。
「君は明後日までヨハンに会わないつもりなのかい」
「ああ、俺の気持ちなんてヨハンには重荷だ。こんな俺の気持ちなんてな」
こんな、とは精霊との超融合により十代は自分自身を化け物だと自負しているのだ。
そして彼がヨハンに会わないのはどう接していいのかわからない事と自分の事実をヨハンには知られたくないからだった。
十代は少しだけあいていた扉を閉め再びベットに潜り込み掛け布団に頭からくるまる。
その様子をじっと見ていたユベルは考える。
彼に何も言わなければ彼は間違いなく再び十代の前に現れるだろう。そんな人間なのだ。
そしてお互いの気持ちの在り方。
ヨハンは深層では十代に何かしらの友情とは違う情を持っているだろう、けれど彼も以前の十代と同じく成長途中。気づけない。
対した十代はヨハンに明確な恋心を持っておりそれをもてあましている。今を避けることができても次はきっと十代は感情を抑えきれないだろう。
けれどその時ヨハンはきっと十代の思いには答えられない。
そこまで考えてユベルはバカな十代と呟き姿をくらませた。
ユベルの気配が消えた事に十代は息をつく、ユベルは何時も充立ちの考えを見透かす。
ヨハン、今何してるんだろうと十代は笑顔の絶えない想い人を思い浮かべた。
ひよどりばなに眠る
fin.
*ひよどりばな(ヒヨドリジョウゴ)
花言葉:すれ違い
20110401エイプリルフール小説