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櫂と三和



今日が雨だと言った天気予報は、やはり予報なのか信じて持ってきた傘は放課後になっても開かれることはなかった。

同じようにいつもは自転車通学のクラスメートは、神よ裏切るのか!なんて言いながら徒歩で帰っていった。そんなに徒歩がいやか。


「かーい!今日も行くんだろ?早く行こうぜ」

傘を持った手を上げながら櫂に近づく。櫂は鞄の横に折りたたみ傘を持っており、それが目に入ったので自分の傘を見てため息をつく。

「やっぱ俺も折りたたみにすりゃよかった」
「降られたら普通の傘の方がいいだろ」


「そーだけどさ、かさばんじゃん?忘れそうだしさ」

クラスの半分が帰ったにも関わらず、傘入れの中の傘は教室の人数より多い。これが表すことは言うまでもない。
櫂も俺の意見に一理あるのか、それ以上言い返してくることはなかった。




キャピタルの人は相変わらず年齢層ばらばらで、アイチたちはまだきてないみたいだ。


「ああ、いらっしゃい。アイチたちならまだだよ」

俺が思ったと同時にねーちゃんが口を開いた。

「アイチたち中3だしな、今の時期忙しくなってきたのか?」


一応は受験生の三人がいないのは自然と言えば自然。けど少し静かな空間に感じた。
持ってきたタオルでカバンを拭き、席に座る。

櫂は新作を何パックか購入してから向かい側に座って、早速開封を始める。
真剣そうで何よりだけど、再来週からのテストは大丈夫なのか。

櫂にはいらない心配か、と頭の出来を恨めしく思いつつ、俺はノートを開いて範囲の確認を始めた。



「三和」

「はいはーい?どうした櫂」

開封したカードを、数分吟味していた櫂に呼ばれて顔を上げる。


「確かグランブルーのデッキが出来そうだと言っていたな」

櫂の質問に、そういえばそんなことを言ったなと腕を組む。
ドロップゾーンを使うグランブルーは、面白そうだと地区予選を見て作り始めたのだった。

櫂は返事を待たずに数枚のカードを差し出す。


「デッキに使え」

ぶっきらぼうにつぶやく櫂に、三和は有り難そうにカードを受け取る。

「マジで!サンキュー櫂!今月小遣いギリギリでさー!」


「完成したら‥‥」
「ファイトだろ?分かってるって」


櫂の言葉を遮って答える。ヴァンガードバカの考えることなんてすぐわかる。
というか、それ以外の目的で櫂がカードをくれたらそれは大事件だ。

もらったカードのテキストを確認する。トリガーを入れ替えてもいいかもしれない効果に、早く帰ってデッキをいじりたい。

「帰るか」

「お?」


短い言葉に反応しきれず変な声を上げたが、櫂は気にせずカードを片付ける。

訳も分からず目を白黒させる俺に、櫂はカードを仕舞い終えたカバンを持ってからあきれた視線を向ける。

「デッキ、作りたいんだろう」


思いもよらない櫂の言葉に、バタバタと荷物をカバンに閉まって櫂の後を追う。
ねえちゃんに注意されたが、それは生返事で返してカードキャピタルを後にする。


走って追いついた櫂に、清々しい気もちで話を振る。


「明日には完成させとくよ」

俺の宣言に「そうか」とまた短く返す櫂の肘を小突く。




「あ、傘忘れた」

左手の違和感にようやく気づいて、手を閉じたり開いたりしながらへらっと笑う。

「馬鹿が‥‥‥。取りに戻るか?」
「いやいい、家にはまだあるし、降ったら入れてくれるだろ?」

折りたたみを指差せば、また「馬鹿が」とため息をつく。


そうは言っても、この幼なじみはしぶしぶ傘に入れてくれるのだ。
軽口を叩いても置いては行かない。

優しい自慢の友達だ。



...







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