他版権 | ナノ






Xカイ



息をゆっくりと吐き出して、ゆっくりと吸いこむ。新鮮な空気が肺に行き届き、カイトは閉じていた目を開ける。

状況は最悪、此方は辛うじて蘇生したレベル4のモンスター一体、対して彼方はモンスターエクシーズに伏せカードが一枚手札も三枚と圧倒的不利。

その上相手のデッキはロック、召喚に成功してもモンスターの破壊、よくて効果を無効化されるのが関の山。


ならば、このドローにかけるしかない。

「ドロー!!」

カードを引き、確認する。そのカードにカイトはまだいけると意気込んだ。

「俺は魔法カードフォトンリードを発動!手札からデイブレイカーを特殊召喚」
「手札から増殖するGを捨て効果発動、一枚ドロー」

「かまいません!デイブレイカーの効果でデイブレイカーを特殊召喚」


場に二体のデイブレイカーが現れるが、相手は素知らぬ顔でカードをドローしていく。

「レベル4モンスター三体でオーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!現れろヴェルズ・ウロボロス!」

召喚したモンスターに相手は流石に眉をひそめながらまた一枚ドローする。これだけ繋げたんだ。きっと勝ってみせる。

もう一度気合いを入れ直し、オーバーレイユニットに手をかけた。






「惜しかったな」

目の前で凹む愛弟子にデッキを整えながらXは声をかける。
あの状況からウロボロスの召喚に繋げた事には目を見張ったが、ドローによって増えた手札によってしのぎきり、Xの勝利に終わった。

「はい、やはりいつもと少し違うデッキは難しいですね」

カイトは悔しがりつつも、苦々しい笑みを浮かべる。
このデュエルは自分のデッキ半分と、いつもは使わないテーマを組み合わせた言ってしまえば即席のバランスの悪いデッキ。
カイトの場合はいつものデッキとガジェットを組み合わせたが、やはりガジェットの枚数が足りずうまく機能しなかった。

一方のXは半分をロックとしたデッキを使用したが、ドローカードも豊富なデッキは多少の事では事故を起こすこともなく、起死回生の手段としてだされたウロボロスも簡単に倒してしまった。


「カード一枚一枚だけじゃなく、さまざまなデッキの事を知ることもやはりデュエリストとして大切なことだよ」

「わかりました先生。けど本当に先生は凄いです!」

Xの言葉に頷いたカイトは目を輝かせながら、Xを見つめる。そのひたむきな澄んだ目にXも思わず笑みを浮かべた。


「カイトは素直でかわいいな」

ぽろりとこぼれた言葉にカイトは目を見開いてから、わなわなと震えだした。Xは怒らせてしまったのかと焦りを覚える。
しかしカイトは俯いていた顔を上げると、テーブルから身を乗り出す様に立ちあがった。

「俺は先生は凄く綺麗だと思います」
「‥‥私が、か?」

はい!そう元気よく頷くカイトにまたかわいいなと思うXだが、カイトの発言を理解することはできそうになかった。
いままでカイトからデュエルや学業についてはすごいなどという褒め言葉を受け取っていたが、よもや綺麗という男としてはあまり嬉しくない褒め言葉を言われることになろうとは。

そこまで考えてXははたと動きを止める。
つい先ほど自分自身がカイトにかわいいといった事への仕返しなのだろうか。たしかにカイトはまだ子供とはいえ、すでに思春期を迎えている。そのくらいの年でかわいいというのはやはり嫌だったのだろうか。
だがカイトは眉をひそめる様子も、ざまあみろなどというような嘲るよな表情も浮かべていない。

むしろ今までいいたかったことを言えたようにすっきりとした表情をしている。
Xのことを綺麗と評するカイトの感覚は理解できないが、Xはそこにはあえて追及せず、手を伸ばして頭を撫でる。

「可愛いは否定しないんだな」
「それをいうなら先生こそ‥‥」


「「‥‥」」

しばらくお互い動かなかったが、カイトのどこかふてくされた顔にXはクスリと笑みをこぼす。その行為にカイトはさらに顔をしかめ、口をとがらせて不服さをあらわにする。

「そう言うところが可愛いんだよ」
「だから師匠だって綺麗ですよ」


しばしの沈黙の後、今度は二人同時に笑い出した。お互いむきになったところで訂正する気もなければ言及するつもりもない。つまり無駄なのだ。
ひとしきり笑った後Xは手元にあった紅茶を飲み干し、カップを再びテーブルに置く。カイトは皿に入れられたクッキーを口に含む。


「カイト、もうこの話はやめにしようか」

Xが微笑みながらカイトに話しかけると、カイトは今までの自分の行動が少し子供じみていたことに恥ずかしくなって顔を赤くしながら、小さく頷いた。
Xも、そんなカイトのまっすぐな褒め言葉に今更ながら、照れくさくなりしばらくの間クッキーを咀嚼する音だけが部屋に響いた。



スイトピーの咲いたとき
真白の花が記憶する
遠い日の思い出



20120501







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -