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Xカイ



「はなせ!どこへいくつもりなんだ!!」

Xに捕まれた腕を振り払おうとするカイトを無視して、人ごみをかきわけパーティー会場を抜けて廊下を歩く。
腕を引かれるままに動くカイトはわけのわからない師であった人物を睨みつける。

しかしその視線は涼しげなXの表情にかき消され、カイトにはすでになす術がなかった。
連れ出された先はハートランドでもリラックスするポイントとして有名な湖と森を一望できるテラスだった。


「人気のない場所につれてきて何が目的だ!」

「カイト‥‥‥‥‥」


睨みつけるカイトをたしなめるように言葉を紡ぐXは、もう一度カイトを見る。
以前よりも身長は伸び、目鼻立ちも少年のそれから青年のものになった。

しかしその逆に、健康的だった体つきはその陰すら残していない。先日の邂逅の時は薄暗い中、トロンの儀式の進行や九十九遊馬の存在に気を取られていたせいでそこまで気に留めなかったが、これは異常の一言につきた。


「カイト、君は‥‥‥」

「っ!さわるな!!」


Xが不意に伸ばした手はバシンと小気味のよい音を立てカイトにはたかれる。
敵意を、憎しみを目に宿したカイトにXは嘆息し小さく、しかしはっきりとした声色で吐き出した。

「君はハルトのことになると限界を忘れる。そんな君と万全な私では実力差は瞭然だろう」
「黙れ!あなたに俺やハルトのなにがわかる!」

会場での行動を繰り返すように、カイトはXにつかみかかってくる。しかしそんなことはお見通しなのかXはその細い手首を逆につかみ、動かないように腕を引っ張りカイトとの距離をつめた。


「もうやめなさい‥‥‥」

息がかかるほど近くで囁かれる。その低い声にカイトはゾクリと全身に電流が走ったように動けなくなる。
甘い痺れに脳まで痺れかけるが、落ちる一歩手前で最後の力を絞り出した。

「あなたはっ‥‥‥おれを、どうしたいんですかっ‥‥‥‥‥!」


それは、カイトがずっと秘めていた疑問であり、カイトの願望のようなものだった。
あの頃のカイトはXになら、Xの望むことならなんでもやりたいと思っていた。それがたとえどんなことでもやってみせるとーーー

Xは何もいわず、カイトの細い手首を開放してきびすを返す。カイトはXの背中に答えろと声をあらげることもできず、弱々しく手を伸ばす。



その背中はどこまでも遠く、もうカイトの隣には立つことはないと思い知らされる。

「っ‥‥!あ、いしています‥‥」

止めどなく溢れる晩年の思いは、口にしても受け取る相手おらず、カイトは静かに涙をこぼした。




パーティー会場に戻る時間を確認しながらXはカイトに想いをはせた。

出来るならあの瞬間、今にも泣きそうな愛弟子を抱きしめてしまいたかった。否、昔の自分ならなにも考えずに抱きしめてあわや師弟の関係をこえた事をカイトにしていただろう。

それほど、カイトはXの中で特別な存在だった。


だが今は違う。自分を戒め、弟子へ向ける感情以上の思いを向けているカイトを傷つけようと、Xは家族のため、トロンのために己の欲望を堅く閉ざすと決めたのだからーーー


「ーーしている。カイト‥‥‥」



閉じ込めた思いを知る相手はもういない。Xは静かに拳を握りしめた。





対極線のパンドラ



...







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