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櫂三和



久々に会った昔なじみがすっかり変わっていた。どこが、なんて聞かなくてもわかるくらい劇的に。
それは三和にとって衝撃的なことだった。






三和は櫂が負け犬とファイトし、カードキャピタルから出ていってから数分後に店を出てファーストフード店に向かった。
そして手頃なセットを注文してカウンター席に鎮座する。

ドリンク片手に外を眺め、先程のファイトを思い出す。
昔よりも格段にあがった腕前に正直度肝を抜いた。

三和が櫂が帰ってきて更に変わったことを聞いたのは高校に入学して、着々と友達を作っていったころ。恋愛にしても性格にしても、噂というものが大好きな高校生。
三和は人懐っこい笑みを浮かべてそれを聞く、それは噂そのものは好きだが周りが好き勝手に言うのが好きじゃないからで。

そしてついこの間、隣のクラスの鉄仮面な櫂トシキはヴァンガードが鬼強らしい、という噂を聞いたときについに三和の笑みは消えた。
その噂の彼が四年前、引っ越していった幼なじみの櫂だと分かったのは廊下ですれ違ったとき。

『よ、櫂』『‥‥よぉ三和』

その短い邂逅でも、三和の頭には四年前までの記憶が鮮やかによみがえった。
そして、それと同時に寂しくも思った。櫂の中で自分は帰ってきたことを教えるに値しない人間だという事実に。

だからこそわざわざ学校から通えるカードキャピタルに足を運んで、勝った櫂に話しかけて昔のようにおちゃらけてみた。


(けど、失敗だったな‥‥‥)

ストローをくわえたまま考える。あの時、三和のセリフに櫂の目は違うと言っていた。
これを機に櫂と縁を復活させるか、このまままた離れていくか。

(離れたくない‥‥‥また話したい)


また明日も櫂に話しかけよう。出来れば一緒にキャピタルに行けたらいい。
考えがまとまり、少しだけ気が楽になった。手に持ち、少しぬるくなった残りのドリンクを飲み干した三和は早々にその場を後にした。


次の日、三和は昼休みに適当な理由でグループを抜けだし屋上に向かった。
噂では櫂は屋上によくいるらしい。高校自体に素行の悪い生徒が比較的に少ない上、屋上は不定期に鍵がかけられる。
つまり屋上が不良の溜まり場なんて一昔前のマンガ展開はなく、扉を開けた三和が左右に首を振ればすぐに日陰で寝転がる櫂を見つけた。
幸い眠ってはいなかったようで少々煩わしそうに目を向けられ、その後目を見開かれた。

「よ、櫂。隣いいか?」

ドキドキと鼓動が早くなる。昔と違うと切り捨てられるのが怖かった。

「好きにしろ」

拒否されなかったことにひどく安堵した三和は櫂が視線を正面に戻したことを合図に、三和は扉をしめ櫂の隣に立ち、壁により掛かる。
まだまだ春の陽気が漂う屋上で、三和は意を決して話しかけた。


「なぁ櫂、今日もキャピタルいくのか?」
「ああ、店員が分からなくても強い奴はいる」

ふーん、と適当な相槌を打つ、これだけで不快には感じていないはずだとそれとないタイミングで本題に移る。

「じゃあ俺もついて行こっかな、強い奴のファイトはやっぱおもしれーし」

二カッと人なつこい笑みを浮かべれば、櫂はじっと三和を見つめた後、好きにしろ。と口にした。
三和はその答えにやったと拳を握りしめたくなるが、櫂がいる手前、ぐっとこらえる。


「じゃ、帰り待ってろよ」

それだけ言いにきただけだから、と三和は屋上を去る。あれ以上となりにいて、昨日みたいに地雷を踏んで櫂が答えを撤回してきたら困る。

教室に戻って早々、三和はクラスメートに顔がゆるんでいると指摘され告白されたかなどと質問攻めに合い、少々ぐったりとしながら午後の授業を迎えた。



(あっれぇ、時計壊れてんじゃねぇの?)


楽しみがあると時間が短く感じるとは迷信だったのか、三和が黒板上の時計を確認しても長針の位置はちっとも変わらない。むしろいつもより遅く感じられる。
授業の内容は頭をすり抜けていく上、ノートの字のバランスもいつもよりひどい。

しかし時計が黒板上にあるおかげでたびたび顔を上げる三和を担当教師は熱心な生徒だと思い、生徒名簿の授業態度の加点をもらっていた。

本日最後の授業が終わりSHRが始まる。比較的SHRが短く、今日も変わらず早く終わらせてくれた先生に感謝しつつ教室を出て隣のクラスの前で終わるのを待つ。
三和のクラスが終わってから数分後、隣のクラスのドアが開き次々と生徒が出てくる。後ろのドアから出てきた姿に三和はかけより櫂、と呼びかける。

櫂は三和を一瞥した後すぐに下足へと歩みを進める。
それに続くように三和は周りの視線を無視して下足へと向かった。

「みたかよクラスの奴らの顔」
「あ?」


櫂の肩を叩きながら三和は楽しそうに笑う。

「俺が櫂に話しかけただけで超びっくりしてたぜ」


三和の言うとおり、今もまた同学年で櫂を知る人間はありえないと顔に書いて櫂と三和を凝視している。
刺さるような大量の視線に嫌気がさしたのか櫂は、早々に下足に履き替え三和を待たずに校門へと歩き出してしまう。


「ちょっ、櫂!待てって!」

慌てて自身も下足に履き替え、中途半端に踵を踏みながら櫂を追いかける。
その途中で何度もつま先でトントンと地面を蹴って靴を履く。履き終えると、少し先にいる櫂の隣に走る。

三和が隣に来ると、少しだけ櫂の歩くペースが上がる。

(まさか待っててくれてたとか)

少し早いペースに合わせながらも三和は少しだけ垣間見えた櫂の優しさに口元が緩むのを押さえられなかった。



カードキャピタルには昨日と変わりなく小学生が中心にファイトをしている。
勿論櫂がその中に入っていくなどありもせず、向かい合っていすに座り昔話に花を咲かせる。
三和が昔の出来事を話せば頷くあたり、櫂は案外覚えているらしい。その様子に三和はそれなら帰ってきたって話しかけろよ、と内心櫂の行動に不満を零す。

それでも高校に入ってからの話や先生への愚痴は高校生らしい感情の吐露に櫂は櫂だ。と三和は安心して会話を進める。


櫂が前みたいに笑わなくても、愛想や面倒見が悪くても、三和にとっては大切な友人であることには間違いない。

会話に乱入してきた昨日の中学生から、ブラスター・ブレードを手に入れた櫂はやはりつまらなさそうだ。
さらにそれが他人から奪ったカードだと分かったとき、分かりにくいが眉をひそめていた。弱いものいじめが嫌いなのも変わっていないのか、と三和はまた昔の櫂との共通点を見つける。

(けど頭が完全にヴァンガード脳なのはどうかと思うぜ)

どう考えたってヴァンガードファイトをしたことがなさそうなアイチを見て三和は嘆息する。

だが、よほど大事なカードなのか櫂にファイトを挑んだアイチはイスに座り、不慣れな様子でシャッフルする。
櫂はアイチにハンデとしてブラスター・ブレードを貸し与え、更にルール説明をする。しかしそれが終わると容赦なく攻撃や防御の戦術を繰り広げる。


「楽しいね、櫂君‥‥‥」

アイチの後ろで櫂の表情をみていた三和は、アイチの言葉一つ一つに揺れる櫂を見つめる。
その表情で四年間の埋められない壁があることも理解できる。

しかし、その櫂に立ち向かい、櫂をここまで信頼するアイチに、櫂を変えてくれるんじゃないかと三和は直感した。


「ブラスター・ブレードでオーバーロードをアタック!」

櫂のエース、オーバーロードに一撃をいれ櫂に勝利したアイチ。
三和はあの櫂が負けた、と思うのと同時に負けてくれてよかった。と不謹慎ながら思う。

櫂の顔は、俯いていてよくわからなかったがきっと悔しそうなんだろう。
昔から負けなしだった櫂でも始めたばかりの頃はよく負けていた。そして負ける度に悔しそうに顔をゆがめていて‥‥‥

「あっ、おい櫂!!」


三和が昔を思い出していると、櫂が店を出て行ってしまい慌てて二人分の荷物を持ってキャピタルからでて後を追う。
今回は三和のスタートが早かったからか、案外簡単に追いつき、櫂はアイチの声に静止してから再び歩き出す。

それでもアイチは嬉しそうに破顔していたので三和はアイチに手を振ってから櫂の隣を歩く。


「‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥」

無言。先ほどまでの話題を出すのはどうだろうと三和が自重していると、櫂はゆっくりと口を開いた。


「負けるのは、久しぶりだ」

櫂は道半ばにあった公園に足を踏み入れ、のベンチに腰掛ける。そして三和も隣に腰掛けたのを確認したかのように続きを口にする。


「勝てない試合じゃなかった。あの時ガードでしのげたかもしれない」

「あいつをみくびっていたつもりはない。ただ、あいつの輝きに負けた」



「そっか。でも‥‥‥‥」


楽しかったんじゃないか?


空気にとけ込むように音は消えていく。昔を引きずろうというわけじゃない、でも勝っても負けても笑って悔しがって楽しかった。そう笑う櫂を思い出した三和は空を眺める。


「負けて悔しくない奴なんていない。勝って嬉しくない奴なんていない。誰でも心の奥では思ってる。
でもどっちだったとしても楽しかったって思える奴は貴重だろ。

ま、もしお前が楽しくなかったっていうならあれだけどさ。連戦連勝の主人公なんてつまんないだろ?負けていいんだよ」

なっ!と三和は空から櫂に視線を移す。かちりと視線がかみ合い時間が止まったような感覚に襲われる。
そうして少したった後、ふいと櫂が視線をはずしその感覚は終わりを告げた。

しかし次の瞬間、三和の肩にほどよい重みがかかる。

「って櫂!?」
「うるさい」


櫂が頭を三和の肩に預けている。いきなりの出来事に三和が叫んだのも無理はない。しかしその叫びも一蹴して櫂は頭を預けたままだ。
一方の三和は混乱の渦に巻き込まれていた。櫂とは確かに幼なじみだが再会しまともに会話したのは昨日ないし今日が初めてであり、男子高校生二人がこうしてる図は何とも言い難い。


「‥‥‥‥少し、こうさせろ」


ぽつりと呟いた櫂の言葉が三和の混乱を少しずつ鎮めていく。
きっと今の櫂は敗北感に襲われてるんだろう。友達ましてや幼なじみと思ってるなら肩の一つでも貸してやるべきだと三和は思い、薄い笑みを浮かべながら。



「貸し一だかんな」


そういって再び視線を空に戻した。二人の周りを春の心地よい風が吹き抜けていった。






end.



...







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