「こんにちはデンジ君、配線工事だってね」
「あぁ、あんたか。今はリーグが休止中って大々的に公表してるからな、人こねぇし」
電力を使いすぎると町が停電しかねないし、かといって備蓄していったらまたなにかしでかすかもしれなかい。そう考えた町の人たちはジムで使う電力を町に流してほしいとデンジに願い出た。
デンジはひどく嫌そうにしを起こしてリーグになにか言われるほうがよっぽど嫌だったので、しぶしぶ了承した。
「はい。実はダイヤちゃんに聞いてね」
ゲンが差し出したのは冷たい清涼飲料、二人が妹のようにかわいがっているシンオウリーグチャンピオンはデンジのやる気を引き出す最良の方法を熟知している。
デンジはペットボトルを首につけて、作業で熱を帯びた体を冷やす。
「ダイヤなんて言ってたんだ?」
「ダイヤちゃん?なにもいってないよ、ただデンジ君が頑張ってるから様子見てきてほしいって」
ゲンの返答にデンジは気の抜けた顔をする。てっきりゲンになにか吹き込んでると予想していたのだ。
ダイヤはその年の割に頭の回転が速い、勉強は好きではないらしいが、バトルシミュレーションやポケモンの育成に関しては目を見張る才能がある。
もちろんそれは悪知恵が働くことにも直結しているから、度々デンジへゲンを使って何かしらの行動にでる。
そう毎回引っかかる訳ではないが、心臓に悪い。
素濃さはぬるく感じ始めたペットボトルのふたを開け、ゴクゴクを音を立てながら補給する。
「っぷは!!あー生き返るー」
「それはよかった、デンジ君後どれくらいで終わりそうなんだい?」
ゲンの指差すそれはもちろん複雑に絡み合ったコードたち、一見バラバラのようだがコードの端子は機械にきっちりはめ込まれており、おわりは近いように予想できる。
「あとこれにカバーはめて作動点検したら終わりだな」
あんたはいつも目敏いなとデンジは笑い、それを直視したゲンは気恥ずかしさから思わず目をそらす。
デンジはそんなゲンに一層笑みを深めて立ち上がる。
「これ終わったらすぐ戻るから俺んちで待ってるばいい」
ゲンの青にも輝く黒髪をすくいながら、デンジは囁く。
恥ずかしさから口が動かせないゲンはコクンと頷いてから、言われたとおりデンジの家に向かおうとする。
「あ、ゲン」
「‥‥‥‥な、なんだいデンジくーー」
そこに続く言葉はかき消された。それが二人の始まり。
20120329