その人を始めてみたとき、あったかい気がした。昔読んでた絵本の中の勇者とどことなくにてる気がして、しかもパートナーはルカリオでこの人はきっと勇者なんだなって思った。
言わずもがなそれは勘違いで、その人はゲンさんっていう現代人で言うなれば他人の空似だった。
私が迷ってたときに、道を示してくれたのは別の人だった。けどいつでも出会ったら必ず柔らかく全て見てくれた。
だからゲンさんはその人柄から多くの人に愛されてる。
家族愛だったり兄弟愛だったり、恋愛だったりとにかくほんとに愛されてる。
だからって誰かがゲンさんを独り占めしたいとか、そういうことは誰もいわなかった。そう、いままでは。
「時たまデンジさんにレントラーの十万ボルト浴びせたくなります」
「は!!なんでだよ!!」
ナギサジムのジムリーダー控え室で、定期的にサボってないかのチェックをするついでに思ったことを口にする。
デンジさんは飲んでた珈琲を吹き出しかけてむせかえる。
「だってゲンさんとったじゃないですか‥‥‥」
紅茶を飲みながらぼそっと不満をもらす。
みんなのゲンさんが、デンジさんのゲンさんになったのことを知ってる人間はあんまりいない。
公に自慢されたらレントラーとか総動員して攻撃するつもりだけどね。
悔しいというか、少し寂しい。ゲンさんだけじゃなくて、デンジさんも私の大切なお兄さん。二人がこれから知らない景色を見るんだろうなって、そう考えたら現況であるデンジさんを攻めたくもなる。
デンジさんは頭をかきながら明後日の方向を向く、一応後ろめたいというか申し訳ないって自覚はあるみたい。
ふわっと不意に頭に大きな暖かい感触が降ってきた。デンジさんに頭をなでられてる。
「そんな事じゃ機嫌直りませんよ」
「そうか?ま、今度三人でどっか行こうぜ。なんならほかの地方とかいくか?」
三人、そう言ってくれるだけで少しだけほっとする。私が二人を結んだんだけど、仲間外れはやっぱりいやだから。
「私を無視していちゃつかないなら考えます‥‥‥」
「努力する」
じゃあ、今からゲンさん呼びます?私来るまでにトバリに旅行用のパンフ貰ってきます、カイリューで。
ジムリーダー控え室を後にして、ポケモンセンターに急いでボックスのポケモンを入れ換えにはしる。
暖かなまなざしを一身に受けながら、私はシンオウの空に飛び去った。
20120322