「あー!うまかった!」
「ピカァー!」
ご満悦と言った顔で、一人と一匹はご馳走様と両手を合わせる。
素直に喜怒哀楽を見せる彼らを微笑ましく思ったのか、ゲンは笑った。
「紅茶頼もうと思うんだけど、サトシ君は何かいるかい?デザートとか。ピカチュウも」
「えっ!いいんですか?」
「うん。まだお腹減ってるだろ?」
そう言えば、サトシは帽子を取った頭を掻いて苦笑に似た、照れ笑いのような笑みを見せて、「じゃあ…」と再びメニューを開いてピカチュウとあれがいいこれもいいと言い合った。
「ルカリオは?」
『俺は結構です』
「そうか」
短い会話が終わった丁度、サトシとピカチュウがメニュー表をこちらに向けてきらきらと笑顔を輝かせていた。
食後のデザート(サトシはストロベリーパフェ、ピカチュウはお子様用のミニパフェを頼んだ)をしっかりと平らげたサトシとピカチュウは改めてゲンに礼を述べた。
「ありがとうございました!お昼ごちそうさまです」
「満足したかな」
「はい!そりゃもう!なあピカチュウ」
「ピッカ!」
口の周りについていたクリームを舐めて、ピカチュウはご満悦な満面の笑顔を浮かべる。
トレーナーとポケモンは似るらしいが、この子達も似ているなとゲンは少し冷めてきた紅茶を一口飲んだ。
「そういえば、ゲンさん達はどうしてこの街に?」
先程から疑問に思っていたことを口にする。
ゲンは鋼鉄島に在住のトレーナーで、普段の仕事に加え最近はカラシナ博士の研究の手伝いもしていて結構忙しいのでは、と考えたからだ。
ティーカップをソーサーに置いて、答える。
「街を見て、何か疑問に思ったことはないかい?」
「え?」
「建物のあちこちが不自然に欠けたりしてただろ?」
「―――あ」
そういえば、と街にやってきたとき多少疑問には思っていた。意識もぼんやりしていたのですっかりその疑念は吹き飛んでいたが。
さっきまで街を歩いている時も建物やオブジェの所々が欠けているのは不思議だった。
「最近ね、此処ら辺一体新しい建物が出来て、コラッタやビッパが困ってしまっていたんだ。齧るものがなくなったから前歯は伸び放題。それで建物を齧ってたんだよ」
「じゃああちこち削れてたりしたのって」
「彼らの仕業さ。まあ、被害者なんだけどね、彼らも」
我々が住処を奪ってしまったのだし、どっちが悪いとかいいとかはいえないなあ
冷め切った紅茶を飲み干して、ゲンは話を続ける。
「前歯が伸びてはまともに食事を摂ることも出来ない。そして人々は建物が削られて困っている。その問題をどうにかするためにこの街に来たんだ」
「そうだったんですか…でも、コラッタ達可哀想ですよね。自分達が先に住んでた場所だったのに」
「人間が多くなると言うのはそういうことだからね。ただ、どちらが多すぎても少なすぎてもいけない。両方がいてこそ、成り立つものがこの世界には多い。判るかな」
「わかります!」
言い切ってから、
「…たぶん」
小さい声で付け足した。
「サトシ君はいい子だね」
その声は決して、子ども扱いする声ではなかった。
真摯に、自分を見つめ、言った言葉だと、サトシは感じた。慈しみと優しさの溢れる蒼い目が、笑う。