サトシ+ゲン
「…やばい」
「…ピーカ」
人が多く賑わう大通りの真ん中で、サトシとピカチュウは力無く呟いた。
………道に迷った!!!!
ヒカリはこの街で開かれるポケモンコンテストにて使うシールやらなにやらをミミロルとパチリスを連れて、タケシを荷物持ちに引き連れ、今にもスキップしそうな勢いで出て行った。
サトシ達は何故荷物持ちを免れたか。
理由は二つ。一つは九時という時間帯までぐっすりと眠っていたからである。そしてもう一つ、ぐっすり眠っていた理由は昨日、
『今度こそピカチュウをゲットよぉー!!』
『今度こそボスの元へ連れて帰るのニャー!』
『目的遂げたら、速やかに退さーん!』
『あっ!待てぇー!!』
例によってロケット団が現れたのである。
そして例によってピカチュウが浚われてしまった。サトシはハヤシガメを繰り出し、[ロッククライム]を命じる。急斜面の崖をほぼ垂直に駆け上っていき、ハヤシガメはそのままロケット団の気球の籠に全身全霊の体当たり。
籠に括りつけられていたピカチュウの耐電ロープも緩み、ピカチュウは自力でロープから抜け出すと、籠の中にいるロケット団らに向かって、
『ピィーカ…』
『あ、はは…』
『や、やっぱり…』
『こうなるのニャ…』
バチバチと鳴る電気がたっぷり溜まった頬袋。
そして、
『ピカチュウ、[10万ボルト]!!』
『チュウウウウウウ!!!』
いつも通りの結果。だった。
だがそのあと、気球は爆発しピカチュウはそのまま落下。
下で待機していたハヤシガメもサトシも慌てて走る。ムクホークを出せばいいのだろうが、生憎タケシの元にピカチュウとハヤシガメ以外のポケモンは置いてきてしまったのだ。
走って間に合わないことを危惧したサトシは、勢い良くピカチュウの真下に滑り込み、見事キャッチ成功。
しかし、幾ら他の人間に比べて身体能力が発達しているとはいえ、まだ子供。しかも同年代に比べれば少し小柄であるサトシの身体は痛々しい程に擦り傷だらけになっていた。
その後。ハヤシガメの甲羅に乗ってタケシ達の元へ戻れば、その怪我はどうしただの何があったのだの、またロケット団かいい加減にしろ、いっぺんめっためたにやっつけちゃえばいいだの(主にヒカリが)憤慨し、サトシの傷の手当をした。
両腕と頬に傷を負ったサトシはそのままポケモンセンターについた途端、事切れたようにぱたりと倒れ、そのまま熟睡。
起きてみれば、いつのまにか寝巻きだしタケシもいない。テーブルに置かれた置手紙を見て漸く納得したのだった。
時計を見て、結構寝たなぁと撥ねた髪の毛を手で無意味に直しつつ、起き出したピカチュウに「おはよう」と笑って言った。ピカチュウも笑って返した。
「腹減ったなー…」
それがおよそ四時間前。
成長期と言うのは恐ろしい。あちこち彷徨い歩いたのも手伝い、絶賛空腹中となっている。ピカチュウも同じくだった。
置手紙には
「昨日のこともあるし、今日はゆっくり休んでてくれ。俺達は買出しに行ってくる。
くれぐれも無理はするなよ。安静にしてるんだぞ!絶対に」
なにやら「絶対」と言う文字が強調されていた気がしないでもない。
他の手持ちのポケモン達もしまいには揃って頷くので、今日は訓練はしないことにした。が、暇なので街を散策しようとポケモンセンターを出たのだった。
道に迷った時は、そこから動かない。
もしくは手近の店の前に止まる。
どちらにしても動かないこと。それが大事だ。
が、
「ポケモンセンターどこだろ…」
既に遅かった。
サトシは肩にピカチュウを乗せたまま力無く歩いていた。宛ても無く。ある訳無いけど。
見知らぬ土地で土地勘なんて働くわけが無い。
おまけに時刻は昼を過ぎていて、ここはどこですか、と泣きたい気分だった。
だから本当に、
「サトシ君、どうしたの?」
正しく天の助けだった。