デンジ×ゲン
*特殊設定注意
静かな部屋の扉をコンコンとゲンは叩いた。
数秒の沈黙の後ゲンは部屋の主の返事を聞かずにドアを開ける。
「こんばんはデンジ君」
二コリとほほ笑むがデンジはかすかに笑うだけで返事は返さない。
彼、デンジは以前はナギサジムのジムリーダーをしていたが、街のよりよい発展のための工事中に事故にあい耳が聞こえなくなってしまった。
耳が聞こえないとしゃべることも難しくなるからジムリーダーの仕事をやめて療養している。
私達は世間一般で言う恋人という関係で、毎週必ず様子を見に来てる。
本当はいつでも一緒にいたいけど仕事をしないのは不本意でジムリーダーをやめたデンジ君に失礼だからきちんと仕事をこなしている。
「今日はトウガンさんからリンゴをもらってきたよ。」
デンジ君はまだ読唇術ができないから何を言ってるか伝わってないと思うけどリンゴと預かってきた手紙を取り出して手紙をデンジ君に渡す。
それを受け取って読み始めたデンジ君の隣りに腰かけリンゴをむき始める。少し遊んでウサギにしようか、とリンゴに切り込みを入れていく。
デンジ君は手紙を読んで薄く笑ってる。
「デンジ君、リンゴ剥けたよ」
軽く肩をつつき皿にのったウサギリンゴを差し出す。
それを皿ごと受け取ったデンジ君を見てサイドテーブルに置かれたメモ帳にペンを走らせる。
“おいしいかい?”
それをデンジ君に差し出せばシャリシャリと左手でリンゴを頬張りながら右手で返事を書く。
“うまい”
そこからはずっと筆談。
“トウガンさんの友達さんが作ったんだって”
“リンゴらしい酸味とかがいいな”
“酸味があるなら今度アップルパイでも作ろうか”
“それいいな”
“他のフルーツももらってきて沢山パイやケーキを作って皆を呼ばない?
プラチナ君やダイヤちゃん、すごく心配してるから“
そこでデンジ君の手がピタッと止まった。
彼が何を考えてるかは伝わってくる波動で何となくわかる。
君は怖いんだね。耳が聞こえない君がダイヤちゃんたちや皆に会うのが、会っても昔みたいに楽しそうな声は聞こえない。
それがつらくて、君は躊躇してるんだ。
彼らはきっと声が聞こえなくても、子供らしい笑顔で君を照らしてくれる。
私だけに頼ってばかりじゃ駄目なんだ。世界を閉ざしても見えるのはただの絶望だけ。
私じゃ役不足だから俯いているデンジ君に呟く。
「好きだよ。――――」
デンジ君は顔をこっちに向け困惑の表情を浮かべる。
言葉が届いてないのはわかってる。何を言ったか伝えない私に勘違いをしてしまうかもしれない。
デンジ君が何を言ったのか追及してくる前に途中で会話が切れたメモ用紙に“今日はそろそろ帰るね、フルーツとか沢山持ってまた来るよ”そう書きこんで席を立つ。
そこから手早く部屋から出て、人ごみに紛れる。
頭の中でさっき言った言葉をささやいた。
好きだよ。でも私ひとりじゃ君を支えきれないんだ
部屋を出るときに彼が何か呟いたように見えたのは気のせいなんだろうか
fin.
20110330修正