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主♂とヒュウ



あのさ、俺数年前によくわかんねえ人にあったんだよな。


ヒウンでアイスを食べていた幼馴染の横に座って、思い出した事を口にした。
アイスを食べる動作を止めなかったけど、話しに耳を傾けたのを確認して数年前のヒオウギの姿を思い浮かべた。


チョロネコが取られて1年以上たったけど、俺たち兄妹の傷が簡単に癒えるわけもなく、妹のぎこちない笑い声とか笑い方、俺の日に日に増すプラズマ団への憎しみ。そんな時だった。


「君が、ヒュウくん?」

目深に帽子をかぶった季節に合ってない厚着をしたその人は、どこか遠くを見ている印象を覚えた。

「‥‥あんたは?」

「んーなんて言えばいいのかな、君たちのご両親からとあるお願いをされた人なんだけど‥‥
今後のことあるから名前はあんまり言いたくないんだよね。多分すっごい不審者だと思うからご両親に会わせてもらえないかな。ご両親なら事情は分かってるし顔も知ってるから」


なんていうか、なんだこいつって思ったのお前以外で初めてだったかも知んねえ。お前のちょっとずれた話聞いてる時の気分とよく似た気分になったから、そのまま脱力して家に連れて行ったんだ。

家に入ったらさ、妹がぎこちない笑顔じゃない本当に笑って俺達を迎えてくれてめちゃくちゃびっくりした。



「ど、どうしたんだよ?」

その時は焦って質問しちまったけど、本当は泣いて喜んで良かったんだろうな。妹がそんな笑顔を浮かべてたのはチョロネコがいた時だったから。

「妹さんはもうお話聞いたんだね。はじめまして、今日1日貴方がミュージカルの座長さんだよ」


被っていた帽子を外して、恭しく頭を下げるその人に俺の頭はついていかなかった。

見かねたその人が言うには、今この地方の団体が協力し合ってポケモンをプラズマ団に奪われた人間を対象にポケモンとふれあうことで心をいやす活動をしてるらしい。
ポケウッドとかスポーツ関連の団体も参加してる一大プロジェクト。


「これがアクセサリーの入ったケースで、この子たちを君色にコーディネートするんだよ」

宙を舞った3つのボールから、モンメン、ゴチム、コアルヒーが飛び出して妹の前に1列に並ぶ。妹も楽しそうにケースからアクセサリーを出し入れして一所懸命にポケモンを着飾っていく。


その人はその様子を確認してから、椅子に腰かけて空を眺め始めた。
俺の家なのにそこだけがまるで知らない場所みたいですこし気持ち悪かったけど、その人はそれから俺に視線をよこした。

「ヒュウくんはプラズマ団が憎くて大嫌いなんだよね」
「‥‥‥ああ、人のポケモンを奪って道具みたいに使う奴ら許せねェ俺は絶対あいつのチョロネコを連れ戻す」

今楽しそうにポケモンと笑いあう妹のためにも。


「そうだね。彼らは最低だ‥‥

少し話がそれてるって感じるかもしれないけどさ、僕は旅をする中で好きな人ができたんだ。その人さぁ‥‥‥もの凄く純粋でまっすぐなんだよね」

好きな人の話をするその人の表情とか雰囲気が、少しだけ柔らかくなって、なんでそんな話をするかはよく分からなかったけどさ。黙って聞いてたんだ。

その人は俺が話を黙って聞くのをみてありがと、っていってからまた話し始めたんだ。


「その人なんにも知らない癖にまっすぐ自分の信じた道を進んでさ、どんなことがあってもその道を進んだ。それって凄いことで、あの頃の僕には凄く眩しく感じて凄く遠く感じた。

けどその人のまっすぐさは、足元も未来も不安定な僕に前を目標を見つけさせてくれたんだ」

懐かしそうに目を閉じるその人の瞼の裏には、多分好きな人との思い出が映ってたんだろうな。俺にはそういうこと分からなくて寝たのかとか失礼なこと考えてたけどさ。

目をあけたその人は、凄く力強い目で俺をとらえた。


「ヒュウくん。君はその人とは違うけどとてもまっすぐだ。そしてここ一帯の中で一番大人だ。きっと君のまっすぐさで救われる人がいると思う。君がそうあり続けるから自分の道が見える人がきっといる。だから‥‥」

その人がゆっくりと俺に差し出してきたのは、タマゴが入ったケースだった。
わけわかんなくてその人を見ると、その人は分かってるって言いながら説明してくれた。

「これはアララギ博士から君へのプレゼント。まだ幼い君がポケモンを持つのは危険かもしれない。けど君はきっと憤りを感じていつ街を飛び出していってしまうかわからない。
だから君のお母さんが博士に相談してね、タマゴはポケモンがそばにいると共にいると早く孵るって言われてる。
けど君はポケモンを持っていない、ポケモンと共にいない君がこのタマゴを孵すのはどれくらいかかるかわからない。

君はここから生まれる君のパートナーと共に進むんだ」

ゆっくりと俺に手渡されたケースの重さが、命の重さなんだってなんとなくわかって、この命を絶対に生まれさせようって決めたんだ。


「まっすぐなんていうけど、つまり自分の感情に正直に進むってことだから、君の心が変わったとしても誰も責めないからね」


帰り際にそう言い残してったその人、その人の言葉がさ俺の道を固めてくれたんだと思う。多分あの人が来なかったら俺はいつまでも弱いままで、燻って生きてたと思うから。

プラズマ団を潰したらさあの人に、俺は別に誰かの道を示したりとかは出来てないけど頑張りましたありがとうございますってお礼したいんだよな。

だからさ、お前そういう人みつけたら俺に言えよ。特徴はな、茶色の髪に水色の上着、赤の帽子を目深にかぶった人だからな!


じゃ、俺そろそろ行くから!!次はライモンシティだ、リゾートデザートとかで迷うじゃねえぞ。



月光のワルツ
君のまっすぐさで救われる人がきっといる
そんなこと出来なかったけどって
ヒュウはいつでも道を照らしてくれてるよ

(ありがとう)



fin.



20120702







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