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さよならの前に話がしたい。そう口にしたのはブラックからで、それがNを戸惑わせる行動だと分かっていても、そう言わずにはいられなかった。

Nと向かい合った状態で、ブラックは自分がずっとしたかった話を始めた。


「さっきも言ったけど僕は君が好きだよ」
「うん、ボクも好きだよブラック」

Nの返しにブラックは苦虫をかみつぶした表情を浮かべる。


「そんな言葉は今聞きたくないんだ。君は子供で感情の区別も本当は分かってない。僕の事はポケモンと同じような感情を持ってるから好きっていってるんだろ?」

Nはブラックの言葉に凄いねブラックと相槌をうち、その姿にまたブラックは表情を険しくする。
分かってはいたことだった。Nに感情の区別なんてついていないことなんて、ポケモンを思う気持ちを中心に成長してきたNはやっぱり子供で、そんな子供から言われた好きなんて意味はない。

「ブラック?どうして、ボクと君は両想いだろ?なんでそんな顔」
「っ」

自分がいたたまれなくて、ブラックはNを引き寄せて抱きしめる。言葉が強制的に途切れたNは驚いたように体を固くしたが、ブラックが離すつもりはないと察し、おずおずとその背に手をまわした。

まだ少し高いNの肩に顔をうずめる。そこから見えるNの耳はうっすら赤くなっている。
そう、Nがブラックに恋愛感情を抱いているのは火を見るより明らかで、けれど今のNは感情の右も左もわからない子供で。


こんなに近くで触れているのにそれがもどかしい。

「N、君は子供だ。だから早くなんて言わないから心を成長させて‥‥そしてその時僕への気持ちを見つめ直して」
「うん」

囁くような声にNは小さく頷く、その動きに連動してNの翡翠の髪がきらきらと光に反射しながら揺れ動く。

自分の気持ちがわかったら‥‥そう、そしたら。


「僕に会いに来て、僕はその答えを待ってるから。いつまでも」


なんて熱烈な言葉なんだろう。自分らしくないとブラックは嘲笑する。出会ってからの短い間で、僕の中でNの占める割合が大幅に上昇して、今じゃ最優先事項だ。
そのくらい僕はNが好きで、同じ気持ちが返ってくるかは分からないけど、僕はそうして欲しかった。


名残惜しかったが、ブラックはNを解放して短くこれで僕の話は終わりだよ、と言葉を発してNに背を向けた。
対するNは考えるように帽子に手を置き顔を隠す。その表情は誰にも見えない。


暗い沈黙のなか、壊れた壁から差し込む光だけが二人を包んでいた。





長い沈黙を破ったのはNだった。ゼクロムの手に乗って、背中に乗る前にブラックと呼びかけた。その声にブラックは反射的に顔を上げる。

「ボクはね‥‥‥自分が思ってる以上に幼稚な心の持ち主だって、知ってたよ。だから決めた、ボクは世界を知るよ。小さな世界に閉じこもることをしないで、だから―――」


最後の言葉は音になりきれず宙に霧散していった。そして、今まで見た中で一番綺麗な笑顔で、Nはサヨナラと呟いた。





Nを乗せたゼクロムがいなくなった場所で、ブラックはたまらず座り込んだ。

何が子供だったんだろう、誰が子供だったんだろう。




「だからまってて‥‥‥!!」

泣きそうな顔で口を動かしたNの、声にならない言葉はしっかりとブラックに届いた。
それと同時に、ブラックはNの深層を覗いた気がした。
Nがポケモンへの愛情のように軽々と僕に愛を伝えていなかったことを、考え抜いて見つけた答えを口にしていたことを。消える直前に初めて知った。


髪をぐしゃりと握り閉めて、ブラックは小さな嗚咽を零す。

Nのほうがよっぽど大人じゃないか、子供なのはむしろ僕の方だ。僕と同じような気持ちをぶつけてこないNはいやだと駄々をこねた子供。Nに説教みたいなことを言える立場じゃなかった。

きっとNはあの帽子の中に隠してた心は僕以上の悲しみだったんだろう。
好きな人に分かってもらえなかった、分かってあげれなかった。それが僕たちの一つの罪。


僕も、待つだけじゃ駄目だね。君がまた‥‥僕に言葉をくれる日が来ると信じて、僕も一歩前に踏み出そう。

流れ落ちた雫を無造作にこすって、僕は王のいない城から外に出た。



罪人に愛の誓いを
悲しみの先は喜びと



fin.



20120705







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