PKMN | ナノ






主♂N


外に出て色々なことを知った。

色とりどりの人工物、広大な海、鬱蒼と茂る森。


輝く街の路地裏の喧騒、全てを包むような柔らかな人。

「全部、僕は初めてだったよ」


そう言ってへにゃり、とみてる人の力を抜けさせる笑みを浮かべるNに、ブラックは走らせていたペンを止める。

ブラックは現在チャンピオンとしてのレポートを仕上げている。曰くチャンピオン1年目の恒例行事らしく、度々行方をくらませる遠く海の向こうのチャンピオンも歴代最強を謳われた元チャンピオンもきちんと提出していると聞かされた。
だからチャンピオンになって思ったことを書いていたときだ、今までじっとベッドに腰掛けていたNが口を開いたのは。

「‥‥だから?悪いけどNのことこれに書く気はないよ」
「うん分かってる、でも僕がレポート書くならそう言う初めてとかを書きたいな、って」

「なるほどね」


Nの初めては多分本当に初めてなんだとおもう。勉強や思想に関しては飛び抜けた実力を持つ彼も、一般常識や知識はかけていた。
ビルも、海も、森も、人の生き方も、全部はじめてだった。

けれどブラックはNの発言に腑に落ちない点があった。


「言っとくけど俺だってそう言うのはじめてだったよ」

「?」


Nは首をかしげる、だってブラックはNとちがって外にいたのだから。

「だから俺は海は知ってても、その広大さは旅に出て初めて身をもって知った。
森も、あんなに光を通さないとは知らなかった。
街の喧騒も旅に出て初めて知った‥‥

ま、人の優しさは知ってたけどさ。



‥‥‥あーあ、これ書き直さないと」


ブラックは酷く面倒そうに今まで書いていた紙を、あろうことかぐしゃぐしゃに丸めてごみ箱に投げ入れた。
突然の行動にNは目を丸く見開いてブラックを見る。その表情は行動の意味をまるでわかっていない顔だった。


そのどこか咎めるような視線にいたたまれなくなったブラックは新しいレポート用紙を机に置く。

「‥‥‥そんな顔しないでくれない?ただ書き直すだけなんだけど。

そうだな‥‥“僕の価値観も考え方もNと出会って初めて変わりました。Nがいたから今、チャンピオンの僕がいます。
Nは僕の大切な存在です、もう誰にもNを傷つけさせないために僕はチャンピオンをし続けます”でいいかな?」


ブラックは楽しそうにペンを空中で走らせながら、歌うように言葉を紡いだ。
その言葉をきいたNはみるみる顔を朱に染め、近くにあったクッションを引き寄せ顔をうずめる。

「そんなの僕に聞かないでくれ‥‥‥」


クッションのせいで籠った、かき消えそうな声が部屋に拡散する。
ブラックはそんなNを愛おしそうに眺めてから、新しい紙にペンを走らせた。



“僕はNが大好きです、チャンピオンになって初めて気付きました。チャンピオンという立場は僕に沢山

の初めてを教えてくれる素晴らしい立場だと思います。”


ブラックはレポートの最後をの言葉で締めくくり、今はクッションを抱いて明後日の方向を向いているNに歩み寄った。

立ちあがる椅子の軋む音にNはびくりと肩を揺らす。こういった事をしたときは必ず同じ反応が帰ってくるからかブラックは気にせずにNの横に腰かける。


「君って自分から押してくるときと押してこないときの差が激しいよね」
「‥‥そうかい?」

そうかいって、自覚がないのか。とブラックは嘆息した。
スイッチが入っていると言うべきか、押してくるときのNを傍から見れば、恐ろしいものがある。

ブラックに近づく人間全員に攻撃してしまおうとするくらいの勢いだ。
勿論ブラックはその行動を恐ろしいとは思っていない。それが自分を頼っているからこそだと分かっているから。


自分の行動を指折り数えながら思い返しているNの頭を撫でながらブラックは言う。

「別に君はそれでいいとおもうよ、今の君が一番好きだしね」
「っ、ほんとかい?」


赤くなった顔を見ながらそっと額に口づける。
ワレモノを扱うように優しく。


「ね?」
「うん‥‥‥!」

はにかむNに再度ブラックは顔を近づけた。
甘く、全ての初めてを思いながら。




愛を誓おう
「好き」
「スキ」
「‥‥愛してる?」
「当たり前、愛してる」



fin.



20110630







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