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ブラック→N
!死ネタ注意



Nが死んだ、そう聞かされたのはほんの1週間前。

アララギ研究所に4人が呼ばれて、不思議に思いながら研究所を訪れると、アデクさんにハンサムさんがいて、博士が眉をひそめながら呟いた。

「皆これから言うことを落ち着いて聞いてちょうだい。

‥‥Nが亡くなったわ」


最初に泣き崩れたのは、意外にもホワイトだった。
ベルが涙をこぼすホワイトの肩に手をおく、ベルの目にも涙が溜まっていた。

僕とチェレンは信じられない、という顔でアデクさんとハンサムさんを見た。
けれど二人はただ首を振るだけで、この話が嘘じゃないという現実がやってきた。


それでもなぜか涙は溢れなくて、僕はこんなに非情だったのか、なんて内心驚いた。

僕はNが好きなはずなのに。恋愛感情として、ずっとそばで笑っていてほしいと願っていたはずなのに。



ハンサムさんから詳しく聞くと、Nはポケモンとトレーナーを身を徹して守って死んだらしい。
僕はああ、君も人になれたじゃないか、トレーナーもポケモンも守るなんて人として立派な死に様だ。なんて不謹慎にも思った。

それから1週間後、つまり今日、僕らだけで葬式をとりおこなうと伝えられた。

本当は国際指名手配犯のNが葬式を執り行って貰えるかは、実のところ不明だったらしい。
それをなんとかしてハンサムさんやアデクさんが手配してくれたらしい。この年で、誰にも見送られないのは酷だと。


葬式会場で僕らは冷たくなったNと対面した。
その顔は凄く満足そうに笑っていて、今にも目をあけて、起き上がってびっくりした?なんていいそうで‥‥

その姿にホワイトとベルは、お互いに抱き合いながら嗚咽を漏らす。
チェレンも眼鏡をあげて目元を抑えてる。

そんななか、ピクリとも動かないNに、僕の中にNが死んだという事実がストンとおさまった。
でも泣けない、心の中ですら泣くことがない。

そんな心の中とは裏腹に無言の僕を心配した母さんは、僕らを控室に促した。




Nとのお別れまであと少し。





部屋の向こうでは、Nと一緒に火葬するものの確認をしていた。
僕がそれをのぞきこめば、そこにはNが被っていたあの帽子がある。

これも、焼いてしまうのだろうか。

それを焼くということは、この世からNという存在全てが消えるみたいでとっさに。


「この帽子、僕がもらっていいですか」

そう口走っていた。

しんみりとしていた周りの空気は一気に驚きの空気に変わり、大人は渋るような顔をする。

「ブラック、こいつを被るのか」

黙っていたアデクさんが、僕をまっすぐ見つめて聞いてくる。


「僕が使うわけじゃないです。

それでも、それでももらいたいんです」

被るわけじゃないのは事実だ。僕には旅に出る前から被っていた大切な帽子がある。
Nに恋情を持っているからこそ、Nと一緒にいた頃の僕でいたかったから、それをかぶろうとは考えもしなかった。

まっすぐにアデクさんを見つめ返せば、アデクさんはふっと優しく笑って、僕に帽子を手渡した。


帽子が変形するのも気にせず、それを握りしめながら僕は葬儀の席にでた。



煙が上っていくのをみた。
ああ、あの煙もNなのか。


僕はまた自分の冷静さに嘲笑した。こんなときくらい泣いていいのに。僕はなんて天邪鬼だ。

ゆっくりと、共同墓地の一角にNの骨壷が納められる。

皆泣きじゃくりながらそれを見ている。
僕は涙の一つもこぼれない自分の顔を帽子で隠しながら、閉じられていく墓を見つめた。


葬儀が終わって僕らはそれぞれ帰路につく。

僕は三人と一緒に帰りたくなくて、さっさと道なき道を適当に進んだ。
今頃三人は探しているかもしれないけど、いまは一人でいたい。


がさり、と草むらを抜けた先には湖があった。確か家の近くに湖があった気がするから、随分歩いたようだ。


夕暮れの空を写した湖はすごく幻想的で。




ポタリとこの1週間、出てこなかった涙があふれてきた。
なんで今、この夕日が優しいからだろうか。



「あ」


わかった、この湖がどこかNのようだったからだ。
Nはこの湖みたいに澄んで、全てを写すような目をしていたから。
全部見通して、全部分かったような顔をして、なんにも知らなかったN。

おさまることを知らない涙は、手に持っていたNの帽子を湿らしていく。



それに気付いた僕は一つの思いを決めて、ゆっくりと湖に足をいれてどんどん進んでいく。
夏に近いとはいえ夕暮れの水は、少し冷たい。

でも構わなかった。


バシャバシャと足を進める。

歩けなくなる深さまで来ると、今度は泳いで湖の中心にたどりつく。
こんなとき、旅をして良かったって思う。昔は全然泳げなかったのに、今じゃこんなに泳げるようになった。

そして仰向けに浮かんで空を見る。


「N、好きだよ」

止まらない涙が、溶けるように湖の水と混ざりあう。

僕は体の力を抜いてゆっくり沈みながら、Nの帽子を手放して、それが沈んでいくのを水中で見送った。




君を水葬した日
最後まで君は無垢でした

一緒に行けないのは何よりつらいです



fin.



20101213→20111223修正







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