必然的にその場に残ったブラックとホワイトは、考えていた。
Nは、これからどうするんだろうと。
この場所はもうなくなる。プラズマ団も消え、Nは本当に独りぼっちになってしまう。
「ブラック、ホワイト聞いてくれ」
砕け散った王座に歩みだしたNに、二人は黙ってついていく。
Nは片手を胸に当て、思いだすように話しだした。
初めて君たちと会ったカラクサタウンでのことだ。
僕は君たちのポケモンが君たちに向って、「スキ」「一緒にいたい」と言っていたのを聞いたんだ。
僕は信じられなかった。
今までそんなことを言うポケモンを見たことがなかったから。
でもいろいろな場所を訪れるたびに、ポケモンはトレーナーを好きといって慕っていた。
僕の考えは間違っているのか?
それを確かめるために君たちに勝負を挑んでいた。
ポケモンのことしか……
いや、ポケモンのことさえ理解していなかった僕が、多くのポケモンと仲間に出会い、囲まれていた君たちに敵うはずがなかったのに。
さて、チャンピオンはこんな僕を許してくれたが、僕がどうするかは僕自身が決めるべきだ………
そこで息をつき、ゼクロムと取り出したNは今まで聞いた中で一番大きな声を張り上げた。
「ブラック!!ホワイト!!
君たちには叶えたい夢があるといった……
その夢‥‥叶えろ!!
素晴らしい夢や理想は世界を変える力をくれる!
君たちがそうしてきたように!!
それじゃあ二人とも‥‥
サヨ「待ちなさいこのバカ!」‥‥え?」
ホワイトは声をあげたと同時に走り出し、Nの頬を思いっきりひっぱたく。
バランスを崩して座り込んだNは、茫然と頬に手を当て目の前で仁王立ちするホワイトを凝視する。
ブラックは予想済みだけど酷いね。と呟きながらもNに近づく。
「何するんだ、僕は」
「君ってホワイト並みかそれ以上のバカ?
あれだけ僕が君のためにキレたのに、君は僕にありがとうもなしにどこか行っちゃうわけ?」
そう言って、Nの前にしゃがみこみブラックは続ける。
「別にどこかに行くことが逃げることなんて僕は思ってない。
ずっと前から言ってるように、僕はNの思った事やりたい事を否定しない。
でもさ、約束くらいしてから別れを言ってほしいんだけど」
にやっと笑うブラックに困惑を隠せないNは約束と復唱する。
ホワイトは、馬鹿といったブラックを睨みつけた後、Nに視線を戻した。
「まったく、ブラックはいいとして、私はあんたに結構ポケモン傷つけられた。
だから今からどこか行って考えて罪を償いますって言われても、はいそ―ですか頑張って、なんていえないの」
ホワイトは人さし指をNに突き立てて叱責する。
いきなり二人にわけのわからないことを言われて、困惑したNはどうしたらいいのか分からず涙ぐみながら声をあげる。
「じゃあ、じゃあ僕はどうすればいい……
考える時間もなくて‥‥」
体を震わせるNに、ブラックとホワイトはため息をついた後。
「「だから、また会いに来るって約束してくれればいいの」」
そう笑ってNの頭をなで始める。
呆気にとられたNが、目を見開いたまま呟く。
「それだけでいいのか?」
「お前を縛り付ける理由はないし、欲しくもない」
「そうそう、あんたはどこかに消えるんじゃなくて、カノコに来る準備をしに行くの」
「たったそれだけで僕は満足するし、安心して君を送り出してやる」
Nはしばらく頭を撫でられる事を甘受していたが、ゆっくりと立ち上がり、ゼクロムの背に乗って小さく何か指示した後、二人を見た。
「君たちは本当に凄い。
ポケモンがいなくても、僕の気持ちを変えてしまった。
サヨナラ。
また会いに行くよ‥‥‥」
涙を浮かべて笑うNは、まばゆい光に包まれ、あまりの眩しさに二人は目を閉じた。
目を開けた時、目の前に伝説のポケモンと緑の青年はいなかった。
3人の英雄の話
「それにしてもブラックはNのこと気に入ってるのね」
「まぁバカとは言ったけど実は君よりはるかに利口だしね」
「どういう意味よ!!」
「ゼクロム、友達ってあたたかいね」
fin.
20100926完成→20110330修正