緑高 | ナノ

俺の恋は誰にも知られてはいけない。普通じゃないから。
どのあたりが普通じゃないかってーと、まぁ、全体的に。とりあえず相手が男って所で一般的にアウトだろ。男同士とか、親にも言えないとか思って必死に隠してきたはずなのになぜか俺の背中を押している変人が若干一名。


「高尾マジ天使!!!」


その女の第一声がコレ。その時は乾いた笑いしか出なかったけど、今ではいろいろ感謝してたりしてなかったり。隠していた俺の気持ちをふっつーに読み取ってなんか、いろいろ手助けしてくれちゃってたりするわけですよ。変人だけど。パッと見普通だからなぁ、たぶん俺ぐらいしか本性は知らないだろう。


「君達は本当に進展がないなぁ」
「漫画じゃねーんだから」
「いい本貸してあげようか」
「いや、いい」


席が隣だからか、自然と話す頻度は高め。緑間が居るときはあんまり話さないけど。
ここまでの会話とかでお分かりかと思うが、コイツ、俗に言う腐女子とやららしい。まさかの俺の恋路はオカズにされているという事実。それでもコイツが居なかったら俺の精神状態はいまより格段に悪かったに違いない。


「いつになったら進展するの」
「だから相談してんですけど」
「あーそうだったね。とりあえず脈が無くは無いよね。」


何を基準に言っているのか知らないが、確かにコイツの指示通りに動いて、緑間の反応が悪かったことは一回もない。大概ツンデレ発動されて、顔真っ赤にされるって言うね。でもコイツが言うと本当に出来てしまうような気さえしている。


「緑間みたいなタイプは、押して押して押して押して、引くと良いかも」
「ツンデレだから?」
「ツンデレだから。」


見るからに彼氏は居ないであろうこいつが、恋愛上手には見えないが、何故か俺と緑間に関してはかなり的を得たアドレスをし、ほぼ絶対的な成功率のある策をねっているのはなぜか。考えた所で答えはでないが。
そのとき、自販機に行っていた緑間が帰ってきたのを視界の端に捉えた。



「真ちゃんまたお汁粉かよ〜」
「やらんぞ」
「真ちゃんじゃねーんだから飲まねって」


緑間が帰ってきた途端に別の女友達の方へ離れていってしまったアイツ。でも、伊達に今まで教えを請ってきたわけじゃない。俺なりの緑間へのアタックってやつしてみよっかなとか思った。
悠々と席について買ってきたお汁粉に口をつけている緑間の隙をついて、その缶を奪った。


「やっぱ一口もーらいっ」
「な、ッ!?」
「…甘ぁ」


想像していた以上に甘かったのは、多分、緑間が飲んでいたからというのもあるだろう。あまりにも衝撃だったのか、未だに緑間は驚いた顔をしている。そして、ハッと我に帰ると俺の手中から缶を抜き去った。


「文句を言うなら飲まなければいいのだよ!」
「別に文句って訳じゃねーっしょ」


俺から取り戻したそれを、緑間が口に運んだ。中身を飲み下して口を離した時を見計らって、間接チューと笑いかけると、案の定睨まれた。どうせ男としても意味ないのだよ!とか、いっぺん死ねとか言われるんだろう。そう予測したが、現実、違った。


「何照れてんのー?真ちゃんかわいー」
「なっ…、!」


俺としてはかなりの勇気を出して言った。一歩間違えば緑間の逆鱗にふれてしまうだろう。まぁ別にいつもの調子で叱られたとしても全然堪えないんだけども。


「…ッ、なんなのだよお前は!」


耳が赤いのは、見間違いなのか。無駄にパチパチとまばたきをしてみたがどうにも見間違いには見えない。まさか本当に照れていたりするのか。自分の都合の良いように解釈してしまいそうになるのを必死に落ち着かせる。これでまた俺と緑間の掛け算の期待値が上がっただろう。


「高尾なのだよ」
「そんな事は知っている。俺の真似をするな」


イライラとした様子で眼鏡を上げていても、耳が赤いからか全く怖くない。むしろそんなところが好きだ。缶の中身をすべて飲み干した緑間は教室の隅にあるゴミ箱へ華麗にそれをシュートした。放物線を描いたそれを目で追っていると自然と視界にはあいつが移った。目線がかち合うと同時に親指を立てて「グッジョブ!!」と。口パクでも何を言っているのか分かってしまうあたり俺もアイツとの付き合い長くなったもんだと実感した。


「高尾」
「ん?なに真ちゃん」


眉間に皺を寄せて何かを言いたげにしていたが、タイミングよく鳴り響いたチャイムにそれは邪魔されてしまった。それと同時に席に帰ってきた腐女子はさっきの三割り増しくらいの気持ち悪い顔で俺を見ている。授業中に飛んできたノートの切れ端には”早くくっついちまえよ”と気持ちの悪い顔文字。なんだよこの4足歩行の生物は。
ここまで俺は押して押してきた訳で、いつ引くか。そのタイミングを伺っていた。ヘタに引いても意味が無いのは分かっているし、かといって今までの女の子みたいにしても緑間が落ちてくれるかといえば限りなくNOに近いものがある。何人も相手にしてきた女とちがって、男相手は初めてで、しかも自分から惚れた相手なんて今まで居た記憶がない。駆け引きがこんなにも難しいことをもっと早く気づけばよかった。


「この本で勉強したまえ」
「おま、コレ…」


放課後、部活に行く前の少しの時間で、あまり人が居なくなった教室にわざわざ俺を引き留めて彼女は、俺の手に中が透けないような袋に入った本を手渡した。中身はまあ、肌色大目のものから軽めのものまで幅広い本。明らかに同性愛もの。返そうとした俺の手を止めさせて、真顔でソイツは言った。


「高尾は緑間とどうなりたいの」
「は?」
「この本みたいになりたいの、それとも普通に近くに居るだけでいいの」
「…そりゃあ、「じゃあこの本を読みなさい。そして勉強して私の理想郷に近づいて!」最後のほうが本音だろ!」


とりあえずその本を受け取りなおした。決して疚しい気持ちで読むんじゃない。これはコイツに無理やり、と自己暗示をかけてスポーツバックの中に突っ込んだ。


「じゃあ俺部活行くわ」
「あ、待って高尾」


離れた顔をもう一度グイっと引き寄せられて、今にもくっつきそうなくらい近い至近距離で下からにらみつけられた。何してんだ、というよりも先に教室の扉の方に誰かの気配を感じて振り返った先に居た人物。練習着に着替えた緑間がそこに立っていて、静かに眼鏡のブリッジを押し上げていた。わざわざ迎えに来てくれたのかと嬉しくなったが、どうにも緑間の顔には不機嫌だと書いているようだったためにその気持ちは薄れてしまった。


「先輩に言われて呼びにきたのだよ」
「お、さんきゅ。じゃあな」
「がんばれ」


バイバイ、じゃなくて頑張れと言ったアイツに若干引っかかるものを感じながらも荷物をもって緑間と教室をでた。このときにはすでにあの腐女子の完璧な作戦に飲まれていたことに気付かずに。
いつにもまして不機嫌オーラをかもし出している緑間にかける言葉が見つからず、気にしていない振りを装いながらチラチラと様子を伺っているままに部室に着いてしまった。


「お前は、アイツと付き合っていたのか」
「はぁ?アイツ?」
「…さっきキスをしていただろう」


さっき、といえばあの顔を近づけられたときしかない。もしかして緑間の居た角度からだとキスしているように見えたのかもしれない。ワイシャツをハンガーにかけてロッカーの中に掛けて視線を緑間に戻すと、緑間が思ったよりも近くに立っていたせいでその迫力に負けてロッカーに背を突いた。


「真ちゃん?」
「どうなんだ」
「どーだと思う?」


いつもの調子でからかうつもりで軽口を叩いたが、今の緑間はからかえるような雰囲気ではなかったようだ。バンッと俺を囲うようにロッカーに手をついた緑間は眉間に皺を寄せた、いつもの不機嫌顔をしていた。


「お前が、」

「お前がアイツと仲良くしているのを見ると腹立たしい」


それって、嫉妬じゃないかと言おうとした俺の口を緑間の手が塞いだ。決まりの悪そうな顔をして顔を背けている。今なら、緑間の考えていることが分かる。俺の口の自由を奪っていた左手を外してできるだけいつもと同じ調子で笑った。


「アイツとはなんもないし、俺が好きなのは真ちゃんだし」


言ったときの緑間の驚いた顔は忘れられない。写真にとって一生保存しておきたいくらいだった。


「真ちゃんは?」
「…嫌い、な、わけ…ないのだよ」


また顔を赤くして顔を背けられた。さっきまでの不機嫌さはもうどこにも無くて赤くなった顔を片手で必死に隠そうとしている緑間を脇目に着替えを済ませ、最近の中で一番すがすがしい気分でバッシュの紐を締めた。部活が終わったらアイツにメールを入れてやろう。
とりあえず結論。腐女子には脱帽。以上。


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