盲目愛 | ナノ


一抹の不安



まさか初対面で触って良いよなんて言われるとは思ってなかったし、少しビックリしたけど、なんだか少し嬉しい。


「?宍戸君、触っていいの?」


宍戸君は返事の変わりに私の手を自分の顔に当てた。跡部君より短くてツンツンと立った髪。なんか気持ちいい。両手でわしゃわしゃと撫でて居るとなんか、違和感。


「?帽子、被ったの?」
「ん?あー…朝、部活んときに」
「変な癖だなぁって思って。でも少しだけだから、触らないと分からないと思うけど。」


それから少し手を下げて、頬に触れた。


「怪我してる?」
「まぁ、それなりに。俺、よく怪我するんだよな」
「顔、跡残らないようにね」


絆創膏があったりしたけど、最終的には、綺麗な顔してるんだろうなと思った。跡部君の綺麗さは、まるで芸術品みたいな綺麗さだけど、宍戸君はなんか、普通に綺麗。


「宍戸君から見た私ってどう?」
「?普通の女子…」
「ほら、私、自分を見たこと無いでしょ?だから、他の人にどんな感じに見えるのかなって」


自分で自分触ったって良く分からないし。一応私だって女の子だから、外見は気になる。


「か、可愛いとは思、う。」
「ほんと?」
「だぁーっ、ちょ、たんま!マジでハズい!」
「し、宍戸君?」


私の手が触れていた宍戸君の温度が離れた。宍戸君がうなっているのは確認出来たけど、急にどうしたんだろ。


「まさか、宍戸君、結構シャイ…?」
「なっ…!」


可愛いなんて男の子に使う言葉なんかじゃないのは分かってるんだけど、思わず口から出そうになった。







生徒会室に跡部を探しにきて、ソファーで眠る彼女を見たとき、とても綺麗で思わず見とれた。白い足とか、ミルクティーみたいな色の髪とか、俺なんかとは格の違う人だと思った。でも今、クスクスと口に手を添えて笑みを浮かべる芦屋は、本当に普通の女の子なんだなぁって思った。普段は女子となんて2人になるのは御免だが、芦屋は別だった。

近づいてくる女子は大抵顔だけ。いちいち面倒くさい。でも、芦屋は目が見えないから、俺と、純粋に会話してくれる。近くに居て欲しい。俺も純粋にそう思った。俺より先に芦屋と仲良くなった跡部が恨めしいと感じるあたり、俺は普通の男なんだと実感した。


「私、男の子に私の外見のこと聞いたの初めてなの」
「!」
「結構男の子ってはっきり言うでしょう?だから、なかなか勇気が…ね」

「でも宍戸君から、聞きたいなって、思ったの。なんでだろね」


少し、芦屋が目を開いた。少しだけ覗いた瞳が俺に向いていて、嬉しかった。見えてないのに、まるで見つめられたように、動機が激しくなった。


「俺で…俺で良かったら、お前の目になってやるよ」
「私の目?」
「ああ。お前が何も見えない分、俺が言葉にして伝えてやる。」


盲目の芦屋には見えないものが俺には見えて、芦屋にわかる何かは俺には分からない。だからこそ、惹かれる。彼女の紡ぎ出す言の葉は、俺には無いものばかりだから。


「ふふふ、そんな事言ってくれたの、宍戸君が初めて。ありがとう」
「いや、その、」
「なんだか告白みたいに聞こえちゃって、少しドキッとしちゃった。」


………確かに
聞きようによっては、一生一生に居てやる、にも聞こえなくはない。
我ながら、ハズい。俺ってこんなキャラだったか…?


「宍戸君は…
ガチャ
「アーン?宍戸じゃねーの」
「跡部!」


手に紙袋を握った跡部は、俺と芦屋の向かいにあるソファーに腰を下ろした。持っていた紙袋から真新しい女子の制服を取り出した。


「芦屋、新しい制服だ。着替えてこい」
「え?あ、わ、わかった」

氷帝の制服と全く変わらない制服をきているのに、新しい制服?汚したとか、でも汚れなんてない。だが、跡部の手を借りて、隣の部屋に着替えるために向かう彼女の後ろ姿を見て、ようやく事情が分かった。
無残にも破けたスカート。


「おい、跡部…」
「…全く、呆れるしかできねぇよ」
「…」
「俺達に色目を使わない女は、こうしてイジメられる」


目の見えないあいつまで。しかしあいつには跡部しか頼る奴が今は居ないというのに。目が見えなければ回避するのも難しいだろうし、かといって何も対応しなければあいつは傷つくだけだ。


「どうすんだよ」
「…あいつから片時も離れない、か」
「そんなの…っ」


無理だ。片時も離れないだなんて不可能。


「…一つだけ、案がある」
「なんだよ」





「あいつを、テニス部のマネージャーにする」





跡部が発した言葉が理解できなかった。目が見えないのにどうやってマネージメントすると言うのだ。さすがの芦屋にだってできない。無理だ。逆にイジメをヒートアップさせるに違いない。


「それこそ、不可能だ」
「アーン?わかんねぇだろうが。あいつは凄い可能性を秘めている」


俺は跡部の言い分に、どうしても賛成はできなかった。



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