盲導…犬? |
氷帝学園が連携している盲学校が、二学期から耐震工事をするとかなんとかで使えなくなるらしく、俺達と学校を共用するらしい。予定では一年弱。 生徒はそんなに多くないらしいから、そこまで邪魔にもならないと思うからと、理事長が受け入れたのだ。 そして、中等部に入る生徒と顔合わせ(とはいえ相手には俺が見えないが)の為に今、俺は理事長室に向かっていた。 (っくそ、時間がねぇな…) 朝練で少しトラブルがあり、時間が押していた。自然と足早になる。時間に遅れるなんて失態したくない そんな中、前方にキョロキョロと周りを見ている女が居た。あまりにも不自然な動きすぎて俺は足を止めた。 「そこの女、何してんだ」 「!!!あ…あの、理事長室は…どちらでしょうか?」 振り向いた女は、確かにこっちを向いているのだろうが、目の焦点は合っていない。せわしなくキョロキョロと目が動いているのだ。 「お前…編入生か」 「は、はい!あの、」 「俺も理事長室に用がある。連れて行ってやるよ」 「ほ、本当ですか!?」 女は頭を下げてくるが、何度も言うように時間がない。了承を得るより先に、女を抱き上げた。目が見えていない分、かなり怖いとは思うが。 「時間がないんでな、黙って運ばれろ」 「あっ、は、はいぃぃ」 ガクガクと震える手で俺のワイシャツをひっつかむもんだから、一瞬破けるかと思った。持ち上げた時の軽さにも驚いたが、この体のどこにそんな力があるのか。 それ以上の会話も特に無く、理事長室に到着した。勿論、入る前に女を下ろして。ノックをした後、扉を開けて先に女を中に入れてやると、理事長は驚いたように目を見開いた。 「芦屋さん、なかなか来ないから心配していたんだよ」 「すいません。道に迷ってしまって…」 「跡部君、ありがとう。まぁ立ち話もなんだ。座りなさい。」 「はい」 彼女を先導しながら、まぁまぁ高級なソファーに座った。 ************* 私は今日から暫くの間、盲学校から、普通の学校に通うらしい。はっきり言って、不安。授業は別にしてくれると言ったって、やはり校内で居る間は五体満足の人たちに囲まれるのだから。 目がキョロキョロしてて気持ち悪いとか、自覚してるけど、イジメられたりしたら嫌だな。しかも、すごく広い校舎らしく、ひとりで行動はあまりしないほうが良いと身をもって実感した。 跡部という人がいなかったら私は多分理事長室にはたどり着いていなかっただろうし。あんまり迷惑かけるの好きじゃないのに。早く耐震工事なんて終わればいいのに。 しかも、今日知ったこと。私の他に生徒は居たけど、みんな他の盲学校への滞在を激しく希望した結果、私だけが此処に混ざるんだとか。そう言う話はもっと早くして欲しかった。 「困ったら跡部君を頼るといいから。」 なんて理事長は言っているが、そんなこと出来ない。ぎゅ、と握りしめたスカート。制服だって違うんでしょう?目立つし。 理事長室から出た後も、私は悶々としたまま立ち尽くした。あー…教室の場所聞けば良かった。話事態あまり聞いてないし。 「何してんだ。置いてくぜ?」 「えっ?」 「同じクラスだろうが」 「あ、はい」 跡部君のワイシャツの裾を握らされて教室まで。私は盲導犬と歩いた事は無いけど、こんな感じなのかな。盲導犬。 階段とかになったら、手すりを握らせてくれて、後何段、と声を掛けてくれる。にしても、これだけ周りがざわざわしてるのに跡部君は一度も誰かを避ける用な歩き方をしない。 まさか、他の生徒がみな彼を避けて歩いていたなんて、私は知る訳もなかった。 |
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