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人形との不思議な生活は既に数週間。そんな中での発見。
まず、アイリは頭がいいと言うこと。また俺が宿題をしているとき、手伝ってくれるのだ。俺は頭が悪い部類には入らない。むしろ良い方なのだが、それでも発展的な問題の中には理解しにくいものも含まれていたりする。そんなときに必ずアイリは俺にヒントをくれる。それは的確なものばかりで、けして答えを言う訳ではなく、そっと教科書を開いてみたりボソッとつぶやいてみたりするだけ。
後、これは最近だけなのだが、日に日に睡眠時間が長くなっているのだ。学校に行く時間になっても目を覚まさないことがあって、寝たままポケットに入れて連れて行くことが増えてきた。初めはパジャマのままだったのだが、二回目からはアイリも学習したようで、寝るときから次の日の服を着て寝ている。俺は、睡眠時間が延びれば延びるほど、人形の中にある"アイリ"と言う人格が無くなっていくように感じる。そしていつか、眠ったまま、目をさまさなくなる時が来るのではないかと。


「光、私が普通の人形になったらどうする?」


カリカリと動かしていたシャーペンが止まった。あまりにタイムリーな問いかけで、ビックリしたのだ。
作詞をしていたって考えるのは可愛い人形のことばかりとなっていたからか、書いていた詩はアイリを連想させるものだ。最近作った曲は、全部と言って良いほど人形ものばかり。シリーズに出来てしまえるだろう。


「いきなり何やねん」
「夢、見るの。目が覚めたら病院に居る、夢」


人形が夢を見るというのも変な話かもしれない。でも、彼女は人形であり、一人の人間なのだから、変な話ではないか。いや、人形に人格がある時点で変な話だから、結局は変な話なのだ。


「病院?」
「うん。それでね、目が醒めたとき知らない人が居たり一人だったりするんだけど、いつもその人達はビックリした顔になって誰かを呼ぶんだ」
「場面的に看護士とか、やろうなぁ」
「ただの夢なのに凄くリアルで、怖い」


膝を抱えてお気に入りの椅子に座っているアイリが微かに震えていた。まさか、彼女も俺との別れを感じているのか?その夢が現実ならば、彼女の本体が別にあって、今此処にいるアイリは人形に取り憑いた幽霊。という仮説が成り立ち、動く人形の謎が解き明かされる。でも、だとしても、俺は信じたくない。彼女に何時までも側にいてほしいと柄にもなく思っているのだ。


「夢の中に知っとる人は居らんの?」
「…知ってる、人?」
「せや、ヒントになるかもしれんやろ」


可笑しな夢が現実か、そうではないかの、ヒントが。少し考え始めたアイリは、キョロキョロと辺りを見渡し、あるもので視線を止めた。その先にあるのは写真だった。部活の、集合写真だ。


「この人、似てる。」
「…謙也さん?」
「もっと、年上だけど、似てる人が、出てくる」


謙也さんに似ている人を俺は二人知っている。一人は謙也さんの弟、翔太だ。でも、謙也さんより年上となれば翔太でないのは確かだから却下。あと一人は、謙也さんの親父さん。あの人は謙也さんに本当に似ている。雰囲気も笑顔も、何もかもが似ているのだ。しかも、病院につとめているのだから、アイリの夢と辻褄が合う。謙也さんに聞けば入院患者の事を知ることができるかもしれない。でもそれをして、何か俺に得はあるのだろうか?最悪の場合俺はアイリを失うのに。


「光?」
「なぁ、もし、それが自分やったらどないするん」
「…」
「俺は、今のままアイリが居ってくれたらええ」


彼女の気持ちを無視した言葉だったかもしれない。現にアイリは俯いてしまった。ツキンと胸の奥が痛んだ。傷つけてしまったか。


「…光は、ズルいよ」
「…」
「私は、光と同じように、光の見てる世界を見たい…!もっと、光を傍に感じたいよ。もし、あれが現実なら、私は光と同じ人間なんだよ…?」


小さいアイリを、強く抱きしめたい衝動にかられた。今の言葉は、おれには愛の告白に聞こえたし、そう思えば愛しさがこみ上げてきた。彼女が人間だったなら、抱きしめて、キスをして、体温を感じる事だって出来ただろう。でも、それは叶わなかった。


「私は、光と"同じ"になりたい…!光が大好きだから」
「もうええ、」
「光、」
「明日、謙也さんに掛け合ってみる」


少し、嬉しそうな顔をしたアイリは俺の指に頬を寄せた。相変わらず体温を感じない。
以前にも数回、彼女が人間だったなら、と思ったことがある。その願いが叶うのに、俺は叶って欲しくないと願っているのは矛盾だ。自分でも分かっている。でも、今の彼女を失いたくない。人としてのアイリと人形のアイリ、両方を同時に傍に置く術があるなら、知りたい。


「じゃあ早速謙也さんに連絡してみる、か」


いつもはメールで済ませるのだが、今は電話。アイリに聞かせたく無くて、わざわざ部屋から出た。病院での人探しなんか手掛かりがなければ難しいだろう。でも、何となく人間のアイリに当てはまる条件が俺の中にあった。
同じ世代で、名前はアイリ。長い間眠り続けている。これらの条件が当てはまればアイリの本体が見つかるはずだ。


「ああ、謙也さん。頼みがあるんですけど――――








次の曲も、アイリイメージになりそうだ。













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