pocket | ナノ


たまたま何となく帰り道に通った寂れたゲーセンで見つけたもの。カプセルに番号があって、取ったらその番号の景品をゲット出来るタイプのやつだ。ちらりと覗いたときに捕れそうだと直感して、お金を入れただけ。予想通り一発でゲット。店員の爺さんに渡すと何やら大きめの紙袋との交換。は、しっかり口までガムテープでガッチガチか。取りあえず、中身が何であれ良いとしよう。そして帰宅。


「ひかおかっりぃー」


舌足らずな口調で奥の居間から駆けてくる甥っ子が、俺の手前で豪快に転けた。べちゃ、でも、ズシャ、でもなく。なんとも言い表しにくい音をさせ、俯せたまま起きないそいつ。仕方なく抱き上げると、目に涙を貯めて下唇を噛みしめている。


「おー流石、男やな」
「ひ、ひかが、泣くんはおとこやないって…」
「せやせや。強い子やなぁ」


兄に子供が出来てから、俺は思っていたより子供が嫌いではないと言うことだ。後ろをちょこちょこと付いて来る甥に嫌悪感は沸かなかったし、面倒を見ることが日課となり生活の一部。片手で甥っ子を抱き上げてもう片方で荷物。ちょっとした筋トレ並みの力が必要になる。台所で夕飯の支度をする義姉さんに甥を届けて二階へ。
荷物は何時もの場所へ、ハーフパンツとTシャツに着替えてからベッドへと倒れた。時間にして15分弱、寝たのか寝てないのかわからないぐらい意識が飛んだ。壁に掛かる時計を見る時に、ふとさっきの紙袋が目に付いた。中身の確認がまだだったのを思い出して起き上がった。

ベリベリベリ、ガムテープを剥がす音だけが虚しくなる。

DOOL

中身の箱の上部にかかれた文字を読んで一気に萎えた。高校生の男子が人形遊びなんかするか。取りあえずどんな物なのか気になって、それを取り出した。亜麻色の髪に、フリフリのロリィタ。目は閉じられていて分からないが、あまりにもこの人形は人間味がありすぎた。

童話に出てくるお姫様が、現実に存在していたなら、きっとこんな人なんだろう。この箱の下には、こいつ用の服が10数枚。既に着ているロリィタの他に、ゴスロリ、ゴスパンク、ネグリジェ。着せ替え人形?にしては服の構造が細かい。そして組み立て家セット。これまたお姫様みたいな内装(イメージ)だ。
そして、恥ずかしながら俺はそいつの服を変えてみる事にした。今のままでも綺麗だとは思うが、興味本位とでも言っておこう。箱から取りだそうと胴体に触れた時、人形が口を開いて、息、をしたのだ。そして、ゆっくり開かれた双眼。深い茶色の目が、俺を見た。


「っ…な、!」
「ん〜、」


自ら起き上がった"人形"は大きく伸びをした。


「名前、ちょうだい」
「は」
「光、名前ちょうだい」
「なんで、俺の名前…!」
「光が私に触れたから」


だからねぇ、早く名前ちょうだい?
そう俺にねだる"人形"を前に、俺は頭がこんがらがっていた。これは、夢?頬を抓った。痛い。


「なーまーえ!」


名前名前、と連呼しながら"人形"は駄々をこね始めた。鬱陶しい、ぶっちゃけそう思った。でも、まじまじとそいつを見ればかなり可愛い。もうどうにでもなれ、そう思って俺は考えることを放棄した。


「アイリ」
「アイリ!私の名前?」

直感、何故か馴染みもない名前をそいつに付けた。でも、それを嬉しそうに受け止めふにゃふにゃと顔を緩めて笑った。


「自分、人形…やろ?」
「…多分?」
「まぁ、人形は人形なんやろな。」
「目が覚めたらここにいたの」


絨毯の上に座り込んで小首を傾げる姿に不覚にもときめいた。相手は人形なのに、だ。こんな事を誰かに相談しようにも、きっと頭がおかしくなったと思われるだけだ。さて、これからどうしたものか。


「ねぇ光!」
「なに?」
「これ、私の部屋?」


座っていたはずのアイリは、立ち上がって箱をペチペチと叩きながら笑っている。なんだか、その無邪気な姿が甥っ子と重なって見えてしまう。見た目年齢は俺と同じぐらいなのに。


「せやけど」
「作って、作って!」
「えー…」
「光おねがい」
「…しゃあないな」
「やったぁ!」


パタパタと走って俺の足に手を置いた。その手は冷たくて、彼女はやはり"人形"なのだと実感した。彼女を見つめていると、足を登って、胡座をかいている俺の右太股辺りで立った。少し重さは感じるけど、テニスボールぐらいの重さ。


「光」
「?」
「私の持ち主が光でよかった!」


ぎゅうっと脇腹に引っ付いてきた彼女の頭を優しく指で撫でた。手を開いて親指から小指までの長さしかない彼女の身長。俺の折り畳み式携帯を開いたぐらい。つまり、小さいすぎではなく、微妙に小さいのだ。
家を作るための部品を箱から出して、説明書を読みながら組み立てて行く。彼女も小さい家具のようなものを組みたてて手伝ってくれた。


「ベッドいらない」
「なんで」
「光と寝る!」
「…」


その現場を想像してみた。俺、ただの人形抱いて寝る変態やん。誰に見られる訳でもないけど、たまに、休日の朝早くに先輩達が押しかけてくるときがある。だから危ない。いや待てよ、そうなったら今組みたてている部屋はどうなる。変な趣味があると勘違いされるに違いない。どっちにしろ俺駄目やな。








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