現在進行形 | ナノ
>> singing you




夏休み、二年になった奈緒はいろいろなところの大学のオープンキャンパスに参戦する、と張り切っていた。本命は俺が進学する大学だなんて嬉しい事を言っていた。俺は家から通える大学の医学部に進学希望で、今の学力ならまず落ちない。奈緒にもその事を言うと、私も頑張る。と笑っていた。ぶっちゃけ彼女の学力は低くはないし、このままいけば彼女の望む学部には受かるだろう。
そして友達と一緒にオープンキャンパスに来る。もうすぐ駅に到着らしく、一緒に連れてきた財前にソワソワしてウザイと一刀両断された。


「―――謙也!」


後ろからの衝撃。腰に回された手。左手に光る指輪に顔が綻ぶ、進級祝で買ったお揃いの指輪。


「奈緒、久しぶり」
「光君やー。また身長伸びたんちゃん?」


スルッと俺から手を離して財前と話し始めたので、財前にちょっと嫉妬。ぎゅうっと次は俺が抱きしめてやって、財前に睨まれた。


「あ、あのー…」
「あっ!ごめん、この子は私の友達」


ぺこりと頭を下げた友達は雰囲気がなんとなく奈緒と似ていた。初めは困ったように笑っていたくせに、徐々に自然な笑顔に変わっていく。2人並ぶとまるで姉妹みたいにも見える。
ちなみに、今日の予定は午前中オープンキャンパスで、午後からの予定は未定。そして、移動となれば、やっぱり2人ずつに別れてしまうわけで、俺と財前のうしろに2人がついて来る感じ。本心では奈緒と手を繋いで歩きたいのだけど、2人が楽しそうだから何も言わない。


「何やろ、このダブルデート感」
「奇遇っすね、俺も思ってました」


珍しく財前が素直。しかも何やら考え事をしているようで、眉間の皺がヤバい。かと思えば少し振り返って2人に話しかけた


「なぁ」
「?」
「午後、カラオケ行かん?」


いきなりカラオケの誘いか。2人はニコニコしながら頷いた。財前にどうしていきなりカラオケなのか聞くと、確かめたいことがあるらしい。何を確かめるんだろうか。




*************



「ハニーフラッシュ!」


きゃーと手を叩く奈緒に、写メを撮る財前。なんで俺がハニーフラッシュやねん。普通これは女子の仕事やんけ!トップバッターやし、歌い終わってドサッと腰を下ろすと、次は俺はよく知らない歌のイントロが始まった。多分入れたのは財前だ。なのに財前は奈緒の友達にマイクを握らせた。


「うわ、得意なやつやん。よかったな」
「え、ひ、1人?」
「んなわけないやろ、デュエットやし」


二人が全く違う歌詞を歌っているのに一体感があって、思わずもう一度聞きたくなるような、歌。きちんと目配せをしたりしてタイミングを計っていたり、リズムを刻んだり。


「うま…」


正直なところ、奈緒とカラオケにくるのは初めてだったし、歌なんて聞いたことがなかったけど、これは上手い。いつもの声のトーンとは違う声に、ドキリと胸が跳ねた。財前も二人の歌に納得したように携帯を閉じた。


「アタリや」


歌い終わった2人に財前が突然放った言葉の意味がわからない


「自分ら、白玉粉さんに、すたぁさんやろ」
「うぇ!?」
「しっ、ししししっ?」
「白玉粉さんは生放送聞いてたから声でなんとなくわかったし、奈緒は今の歌で分かった」


なんか、恥ずかしいやんと俺に寄りかかってきた奈緒に詳しい話を聞いてみると、どうやら2人はWeb上で歌を動画サイトに投稿する“歌い手”なるものらしく、そのサイトは財前もよく利用するのでバレたらしい。


「生放送、見よったんですか…」
「白玉粉さんやって俺の生たまに来てるやろ」
「え…え、あ、まさか」
「善哉Pっすわ」


なんやろ、この疎外感。奈緒の肩に寄りかかると、グリグリと反発するように引っ付いて軽い押し合いみたいな状況。んふふふふ、と目を合わせると可愛く笑う奈緒の額にキスをした。相変わらず可愛い、なんて、ただの惚気。


「あんな、私のすたぁって名前、謙也がスピードスターやからなんで」


そんな所まで俺が浸透していて嬉しかった。思い切り抱きしめると苦しそうに呻き声を上げていたが、背中に回された手が愛おしい。


「白玉粉さん、次の新曲、原曲の前に歌ってみたの方でアップ頼みたいんやけど」
「え!う、ウチなんかでえん?」
「あんたの声、好きやしイメージにピッタリや」


歌の話をするときの財前は凄く生き生きしていてたまに零す笑顔が女子のハートを攫う、らしい。(奈緒談。)なんか、二人がいい雰囲気になっていて奈緒は嬉しそうだった。なんでも、奈緒の友達は善哉Pがずっと好きだったらしい。だから2人が仲良しになるのが嬉しい。と。


「それに、」


コソコソと耳の近くに唇を寄せて囁いた。


「ダブルデートとかできるし、ね」


ニコッと微笑む姿が男を誘って、理性を崩すことをこの小悪魔は知らない。


「イチャイチャすんな」


スパンと奈緒の後頭部に平手が跳んできた。顔の真横にあった奈緒の頭が揺れる=俺に頭突き。いたぁ!と声を上げる奈緒より、多分俺のが痛い。


「ちょっとーいきなりやめてよー」
「ごめん。つい★」
「いやいや、★じゃないわ」


でも満更でも無さそうに見えるのは俺だけだろうか。いや、俺だけじゃない。きっと財前も同じ事を思っている。ハズ。そしてまた2人がマイクを握り、財前がデンモクを弄る。え、俺、何係?


後日、今回の事で歌い手に興味を持った俺が財前もとい善哉Pのプロデュースで某動画サイトにて歌い手デビューするのはまた、別の話。初めて歌った歌は、かなりの高音早口で、俺的には普通だったけど、ネット上でかなりの反響があったり無かったり。ちなみに、ネット上での名前は「すぴぃど」。奈緒のと対になるように、奈緒が付けてくれたのだ。


共通の趣味が出来て嬉しい。とか、思ったりして。






僕達、歌います!

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