最終着点は分からない | ナノ











「…え、っと?」


玄関を開いて、外に立っていた人は私の事を知っているようで、久しぶりと声を掛けてきたが、私は全くもって記憶が…………………


「えぅ、あー」
「あ、こら斎!」
「大きくなったね、長男だったよね?」
「あ、うん。」


居間からはいはいで玄関まで来てしまった斎を追いかけて澪がパタパタとかけて来た。澪は人見知りしないので、お客さんは好きだ。しかし、澪は、今日のお客さんを見て、私に見向きもせずにそのお客さんに飛びついた。


「しゅーしゅけにいにだ!」


しゅーしゅけ?しゅうしゅけ…しゅうす、け…!?


「不二くん…?」
「久しぶりだね、楓」
「まさかこんな所まで会いにきてくれるなんて思って無かった!何年ぶり?」


実質、私自身が彼と会うのは5、6年ぶりになる。澪は多分景吾が会わせたんだろう。澪を抱き上げ、大きくなってまぁ、と澪の頬にキスしている不二君。そんなの景吾が見たら怒られるよ。


「とりあえず、どうぞ。景吾は双子の定期検診なの」
「そう?勘違いされないかな?」


クスクスと笑いながら、内緒ね?なんて笑う彼は相変わらずだ。私は斎を抱いて、不二君を居間へ案内した。澪も斎も、不二君が好きみたいで、とにかく構ってもらいたげにまとわりついていた。コトリと机に紅茶を。今日はアールグレイ。


「私に用?それとも景吾?」
「いちおう、メインは楓。跡部はどっちでもいい」
「私?」
「うん。」


モデルになって欲しい、と。ただ一言まっすぐにお願いされた。不二君はまぁまぁ人気のあるカメラマンだが、今まで人間を被写体にした写真集は一つも無かった、だから挑戦したい、私で。どうして私?もっと綺麗なモデルさん達は沢山居るのに、こんな、私?


「彼女達は綺麗だけど、変に自分の見た目に過信している。だから僕は彼女達を撮りたいとは思わない。」
「だからって…」
「頼むよ、楓。俺が生まれて初めてきれいだと思ったのは君なんだ。だから、この写真集の話が持ち上がったとき、一番に思い浮かんだのは楓だった」


年甲斐もなく、口説かれてるような気がして、不覚にもときめいた。ごめん、景吾。今のは気の迷いよ。ともかく、これは私の一存だけで了承していい訳ではない。


「ちなみに跡部は楓が良いなら反対はしないって」
「え?そうなの」
「まぁ、頷かせるまでに用色々条件は呑んだけど…僕、写真には妥協しないんだ。撮りたいものしか撮らないし、どうしても撮りたいものはなんとしても撮る」


不二君のまっすぐな写真への思いを受け、景吾が許可したならいいか…。と私は軽く二つ返事をした。してやったり、と彼はニヤっと笑ったように見えたが、澪に視線を向けた。


「ありがとう。じゃあ、詳しい日程とかはまた後日跡部を通してお知らせするよ」
「うん。あ、不二君今日ご飯食べて帰って?ね?」
「そう?じゃあ、お言葉に甘えようかな」


今日はパエリアー。な予定だったから、不二君一人増えたって何も変わらないし。腕を振るって差し上げましょう。



**************



楓に水をせがまれ、口移しで飲ませると、もっと、もっと、とねだるので、仕方なく何度かそれを繰り返した。


「満足か?」
「ん」


サイドテーブルに水の入ったペットボトルを置いて布団に潜り込んだ。


「もっとこっち来いよ。寒いだろ」
「まだ、熱いん、だけど?」
「俺はまだまだ頑張れるぜ?」


今日はもういい。と腕に収まった楓の一糸まとわぬ柔らかい体がぴったりと密着した。


「不二君の、本当にいいの?」
「俺も一緒にするって話でな」
「えっ!?そんなの聞いてない!」
「なんだ不満か?」
「不満…じゃないけど…」


ぼそぼそと何かいいたげにしてはいたが、諦めたようだ。背中に楓の腕が回った事で、眠る体勢に入った。深夜一時。三時間も付き合わせてしまったから、楓はすぐに寝息を立て始めた。


「俺の方が気が気じゃねーよ馬鹿」


こんなに愛しい楓が世間に知れ渡るだなんて、気が狂いそうなくらいだ。本当は監禁してやりたいくらいなのを、必死で押し殺す自分。幸村が、楓を手放したがらなかった理由を俺も分かってきた。誰でも虜にしてしまう楓は麻薬のようなものだ。





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