最終着点は分からない | ナノ










景吾と結婚して四年。澪と斎に継いで、私達の家族は増えていた。二卵生双生児の、沙羅と琥珀。双子ができたと知った時、飛び跳ねたくなるくらい嬉しかった。だって双子って夢じゃない?二卵生と言っても、2人は同じような顔をしている。勿論性別が違えば見分けることは簡単なのだけど。そんな私たち家族の、とある天気の良い、日曜の午後の事である。


「まま」
「あら澪、三人は?」
「お庭でぱぱと遊んでるよ」


3時のおやつを準備していた私の近くに走って来た澪は手に何かを握っている。ちらっとそれに目を向けると、私のほうに手を突き出した。


「あのね、四つ葉のクローバ見つけたの!ママにあげる」
「ほんとー?ありがとう」「えへへ」


澪の頭を撫でると得意気に笑った。もう澪も4歳。私は26歳。年、取ったなぁとか思う。斎が生まれたとき以来日本には帰っていないから、三年?ぐらい帰ってないんだっけ。でも赤也君とか越前君とか、テニスの試合でこっちに着た時に遊びに来てくれるからかな、みんなにあんまり会ってないって感じはしない。


「ままもお外行く?」
「そうしようかな」


3時までは時間もあるし、おやつの準備はできてるし。澪に手を引かれながら庭へ出ると、日陰になる芝生の所に寝そべっている4人人が居た。左から景吾、斎、琥珀、沙羅の順だ。


「景吾、!?っきゃ!」


目を閉じていた景吾を覗き込んだ瞬間に手を引かれ、豪快に芝生に転がった。でも痛くはなくて、目を開けると、笑いをこらえる景吾が上にいた。


「ママはドジだなぁ、澪?」
「ままどじー」
「っ、景吾!」


下から軽くどついたら、軽くキスを落として景吾は退いた。三人も寝たふりをしていただけで、ケタケタと笑っている。最近の景吾は子供っぽいことをよくする。私達には恋人期間が殆ど無かったけれど、今も、恋人の延長線上に居るみたいに、一人の女として景吾が扱ってくれるのが嬉しかったりする。


「髪、草付いてる」
「ありがと」


スッと景吾の指が私の髪を梳く。長く延びた髪は、景吾が切るなって言うから、結婚式の後切ってそれ以来。


「髪切っちゃだめ?」
「んー」


膝の上に澪を乗せて、私は澪の髪を撫で、景吾は私の髪を手で梳く。私の影響があるのか澪も髪を延ばしたいらしい。パーマをあてたように、毛先がくるくるとしている澪の髪はお人形さんみたいで可愛いと評判である。


「まま切る?」
「パパが良いって言ったらね」
「まま切るなら、澪も!!」
「澪も切るんだって」
「…また今度」


いつもこれだ。絶対にうんとは言わない。まぁ、別に、昔も長い時期があったから苦にはならないけどね。


「おやつ!」


部屋から3時を知らせる時計の音が鳴ったとたん、斎と澪が立ち上がった。沙羅を景吾が、琥珀を私が抱っこして2人を追いかけるように中に入った。


「手は洗ったのか?」
「まだ!」
「ばいきんさん流さないと、おやつは無いぞ」
「「はーい」」


景吾の口から、ばいきんさんと言う単語が飛びだす事にも、もう慣れた。沙羅と琥珀を澪にお願いして、私は景吾と台所で盛り付けにかかった。


「今日は?」
「ベリーパイ。昨日買い物行った時安かったから。」
「値段は気にしなくてもいいだろ?」
「駄目。世の中の主婦の楽しみなんだから」


勿論、斎や双子を身ごもった時みたいに、跡部の本家から使用人が来たら、料理は愚か、洗濯機さえ触らせてくれなかった時期もあった。あれはいただけない。


「でも日本に比べたらこのあたりのタイムセールは人が少ないし、安全だよ…はい、運んで景吾」


切り分けたパイを皿に盛り付けて景吾に運んで貰いつつ、フォークと、コップと、紅茶にジュース。手を洗い終わった子どもたちが走ってきて、景吾が椅子に座らせた所で、私も椅子に座った。


「いただきます」


沙羅と琥珀のぶんは食べやすい大きさに切っておいたので、後は零さないように見守った。


「ままとぱぱ食べないの?」
「パパ達は後から食べる」


正確に言えば、子ども達が食べ残したものを処理するために。小さめに焼いたとはいえ、子ども達の小さい胃には結構な量になる。


「ぱぱ」
「なんだ?」
「食べたら、テニスいこ!」


斎は、テニスが大好きだ。時間があればテニステニス。澪もテニスは好きだけど、澪はピアノやバレエの方が性に合うようだった。沙羅と琥珀はまだ何も分からずに上の2人の真似をしてラケットを握っているだけのようだ。
微笑ましく景吾と斎を眺めていた。


「じゃあ澪はママとお買い物行く?」
「うん!」


こうして、また、日曜日が過ぎていく。






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