最終着点は分からない | ナノ












―明後日には帰ります。みんなによろしくね。


海外に居る楓から、蘭にメールが届いたのは一昨日で、しかもちょうど今日は土曜。何時頃に帰ってくるのか分からないが、兎に角今日の午後は久々に立海メンバーが揃うのだ。真田の家も柳の家も子供が居るから、夜遅くまでは騒げないだろうけど。
時間と集合場所が記名されたメールが蘭から一斉送信されていて、場所は柳家。だったはずなのに…。全員が揃った所で現れた黒塗りの長い車に押し込まれたのだ。


「跡部か…」
「相変わらず強引だね」


やけに目立つその車。大人しく運ばれてやれば、アトベッキンガム宮殿に到着した。出迎えは氷帝の懐かしいメンツ。相変わらずの雰囲気というか…。しかし肝心の跡部の姿がない。


「跡部は?」
「後少しで到着すると連絡がありましたけど」


そろそろ来るはずだと日吉が門の方へ視線を向けると、タイミングを見計らったように入ってきた高級車。勿論運転手は跡部、助手席には楓が乗っていた。


「あれ?みんな来てたの!?」
「誰かさんのせいで拉致されたんだよ」
「アーン?俺の事か、柳嫁」
「跡部しか居ないでしょうが…っ!」
「蘭、突っかかるな。」


跡部に絡む蘭を窘めたのは勿論蓮二。蘭は子供を抱いて居るし、女として、大人しくしておいて欲しいと言うのが蓮二の気持ちだと思う。
一方、車から降りた楓はしっかり二人目を抱いていて、跡部は後部座席のチャイルドシートで寝ていた長女を抱き上げていた。


「かっわいー!先輩、名前はなんて言うんすか?」
「切原ずりぃぞ!俺も俺もっ」


赤也や向日、ブン太と楓の腕の中の赤ん坊をのぞき込んでいる。その子は跡部に似ているのだろうけど、珍しいものを見るように三人を見つめていた。
俺は跡部の腕の中で眠る澪を見ていた。


「寝顔が楓だ…」
「生き写しみたいだろ」
「フフッ本当にね。」


プニプニと柔らかい頬をつつくと、少し嫌がる素振りを見せた。それがまた、可愛くて。


「先に弟君抱かせてもらおっかな」
「構わないが、取り敢えず中に入ってくれ」


跡部に促されるまま、全員が屋敷内に入った。夕食も振る舞ってくれるらしい。結婚してたり、同棲してたりする人達は夕飯の前には帰るらしいが、残念な事に俺はどちらでもない。


「まぁー」


みんなで話しながら寛いでいた時だ。寝ていた澪が起きて来た。目が覚めた時、近くに誰も居なかったからか、少しばかり涙を浮かべている。楓が動くより先に跡部が澪を抱き上げた。背中をぽんぽんと優しく叩きながら眠気が覚めるまでそれを続けていた。
暫くして、目が覚めた澪に跡部が水分を採らせてから、澪は活動を始めた。


「いっ、ちゃ!」
「駄目よ、澪。いっちゃんはまだ小さいから遊べないの」
「ちゃ?」


楓が抱いていた弟に手を伸ばして遊ぼうとしたのだ。澪としては、友達を遊びに誘ったような気持ちで、何が駄目なのか理解出来ていない。


「澪、お兄ちゃん達に遊んで貰いなさい。」
「やぁー」


楓の足に取り付きながら泣き始める。子供って、良いな。可愛いし。微笑ましく見ていると、澪のまんまるな目が俺を捉えた。かと思えば泣き止んで隣に居る俺のズボンを握りしめた。


「だ、っ!」
「幸村君、抱っこだって」
「抱っこって言ったの?」
「多分ね」


ニコニコしながら俺と澪を見ている楓。一瞬、ほんの一瞬だけ、夢を見た。俺がもっと器用だったら、こんな未来が待っていたのかもしれないと、今更ながらまた後悔した。
簡単に俺の腕に収まる澪。この子は、俺の子なんだろうか?


「、!」
「?なんか楽しそうだね」


ふわふわした髪を撫でて、少し自惚れた。この癖毛は俺の遺伝子かもしれない、と。自分に似ている所が無いか、気がつけばまじまじと見つめていた。仁王は、抱かないんだろうか。ふと思った。でも仁王は自分に可能性があるなんて夢にも思っていないだろう。元々子どもに興味が無い仁王は、手を出さず、楓や蘭の腕の中の赤ちゃんを眺めている。


「仁王も抱かせてもらえよ」
「ん?…俺は遠慮す、」
「はいっ!」


渋る仁王に澪を押し付けた。本音を言えばまだ抱いていたかったけれど、独り占めはね?なんか悪いし。


「っ、ちょ、幸村!楓!」
「?」
「み、お?」
「あぃっ」


わざとらしく楓と俺が仁王を無視して、慌てている仁王を首を傾げて見上げた澪。可愛らしげに返事をして、仁王を見ている。
なんか、シュールだ。仁王は子育て向かないな。仁王とランデブーしている澪を脇目に、素直な感想を述べた。


「澪は発達が早い方?」
「多分…歩くのは普通より遅かったんだけど、言葉の理解は早いの」


澪や斎を見つめる楓は、母親の顔をしていた。俺の知らない楓。跡部と楓、蓮二と蘭、真田、をみていると家族も良いものだなと思う。でも俺はまだ新しい恋をしようとは思わない。まだ楓が好きだから。女々しくてもいい、ただ好きで居させてほしいだけ。


「ふぇ、っ」


そんな事を考えていると、突然楓の腕の中の斎が泣き始めた。しかし、楓は焦ることもなく、授乳してくるね。と部屋を出てしまった。





澪と幸村君を見て、私はふと考えた。もしあの時、私が景吾と出会っていなかったら…と。でも、私は景吾と出会って後悔はないし、とても幸せ。私の胸に吸い付いている斎と目があった。景吾と同じ目。あの時の出会いが無ければ、この子は存在しなかっただろう。お腹いっぱいになったのか口を離した斎を見て、胸をしまい、斎の背を軽く叩いた。満腹になり、眠そうにしているから、早くげっぷさせてやりたい。少ししてようやくけぷ、と音をさせたので安心。
うつらうつらしている斎をベビーベットへ寝かせ、メイドさんに目が覚めたら呼んで貰えるようにお願いした。

みんなが居る部屋に帰ってびっくりしたのは、澪が仰向けになった日吉君の上で寝そべっていたのだ。


「楽しそうね」
「まぁ」
「日吉君って子供に好かれるタイプ?」
「…どうでしょうね」


私と話しながらも日吉君は澪とじゃれあっている。なんだか、澪は将来男を尻にしいてるかもしれないと不安になった。






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