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よくよく考えてみれば、私は紫原敦という人物についてほとんど理解できていないのではないだろうかと思った。でかくて、お菓子好きで、割と女子受けする仕草と顔立ち。私が知っているのは彼の外見でしかないのだった。だけど、彼が気軽に他人に自分がいつも抱えているお菓子を渡しているところは記憶の中にはなかったわけで。

「名前ちんおはよ〜これあげる〜」
「お、おお…ありがとう」

ある日を境に毎朝のように彼からたくさんのお菓子というか、貢物をいただいている。飴とかから始まって、大きい袋のポテチやらゼリーなどまで、ちなみに昨日はまいう棒だった。

「餌付けされてるのかな」

たった今もらったばかりのチョコレートを舌の上で融かしながら少し離れた席に座る巨人の横顔を見つめてみた。たまに目が合うと、ふにゃっとした笑顔を見せてくれることがある。不覚にもキュンとしてしまうのは仕方ない。きっと彼は自分の顔が女子受けすると知っていて、しかもどんな顔をしたら女子がキュンとするのか知っているんじゃないかと思ってしまうくらいだ。あざとい、あざとすぎるぞ紫原敦。
しかし、このまま彼からお菓子をもらい続けるわけにはいかないのが女子である。毎日頂いたお菓子を食べていると、この二か月で1.5sも体重が増えた。これは忌々しき事態である。もしかして彼は私に餌を与えて太らせることが目的で、自分のあざとさを利用し大事なお菓子を渡しているのではないだろうか。だとしたら辛すぎる。

そして次の日、私は行動にうつした。朝、悠々と教室にやってきた巨人がまっすぐに私の机の前にやってきて差し出したお菓子。今日は焼きチョコのあれだ、欲しい。しかしこのままでは私の体重は右肩上がりだし、ここは欲を抑え込んで断るしかない。

「名前ちんおはよー、これあげる〜」
「いつももらって悪いから、今日はお菓子いいよ。」
「えー別にいいのに〜」

あざとい困り顔をされて私の決心が揺るいだ。ぐ、ぐうかわ。某アイドルグループのあの子にも負けない困り顔天使。ねぇねぇ食べてよ〜と顔を近づけて来られると、はい。しか言えなくなる。

「でもね、紫原君。私体重増えちゃって…」
「本当〜?でも俺名前ちんはもっと太っていいと思うんだぁ」

だから、ね?とさっきまで推していたチョコを脇に寄せて棒付きの飴の包装をとって差し出してきた。ぐ、と一瞬ためらったものの最終的には口に含んでしまった。その時に嬉しそうにふにゃっと笑って頭をよしよしされて、自分でいうのもなんだけど私ちょろいわ。

「名前ちん、お菓子すき?」
「どっちかっていうと好きだよ」
「俺も好き〜」

そしてふにゃふにゃと笑顔を振りまいて彼は今日も自分の席に帰った。結局彼が私を特別扱いしてお菓子をくれる理由は分からないままだし、彼に直接聞く以外に解決方法はないような気さえしてきた。ああ、今日の飴もおいしい。
とはいえ、私と紫原敦はそこまで普段から会話をするような仲でもなく、毎朝の餌付け以外は彼と話をすることもほとんどない。だからいつもタイミングを逃してしまう。どうしていつもお菓子をくれるの?と聞くだけなのに。

「ねーねー名前ちん、今日の放課後暇?」
「え?暇だよ」

ある日、いつも通りお菓子を渡して席に帰るのかと思いきや放課後の予定を聞かれ、だったら練習を見に来てほしいと。とくに予定もなかったため二つ返事でオッケーしたが、私は失念していた。放課後の体育館がどれほど人で溢れかえるのかということを。特にモデルの黄瀬涼太が入部してからと言うもの一軍の使用している体育館には見学者が絶えないと聞く。それでもあの大きな妖精さんにお願いされたからには、彼の顔を見ずに引き下がるのも申し訳ないと思って私は女子の群れに紛れ込んだ。案外、一人だとうまく前の方まで流されて良い立ち位置をゲットできた。
今日は部内での練習試合みたいだった。キセキの世代はカラフルな頭で目立っているが、とりわけ彼は大きさで目立っていた。日本人離れした体格で厳ついのかと思えば、ベンチにまでもお菓子をもって入っているような子供っぽいところは彼らしいといえば彼らしい。キョロキョロと周りを見渡しているなぁ、と思ってみていると私を見つけた途端にあの妖精の笑顔を向けてきた。あざとい。かと思えば試合ではいつもは見せない真剣な顔をしているのでなぜかキュンとさせられた。これがもしかしてギャップ萌えというやつなのだろうか。試合後にはまた私の方へ向いてしまりのない顔で微笑んだ。私の周りにいたほかの女の子たちは誰に向かって笑っているのかとざわざわしていたが、あれは間違いなく私だと信じたい。
部活後、ほかの子が帰ったあとで校門付近で紫原君を待っていることにした。いつもお菓子をもらっているので、そのお返しにでもなればいいと思って近くのコンビニで肉まんとあんまんを買って来ておいた。

「名前ちん?」
「あ、紫原君。おつかれさま」
「待っててくれたんだ〜」

一緒に出てきたキセキのメンバーを置いて、嬉しそうに駆け寄って来た。身長差50pは流石に首にくるが、目の前に差し出した肉まんとあんまんの入った袋を嬉しそうに受け取ってもらえたので良しとしよう。

「紫原、その子が噂の彼女か?」
「う、噂?」
「そう〜可愛いでしょ〜」
「紫っちの彼女ッスか!名前は?」

ちょっと待て、私はいつの間に紫原君と付き合っていることになっていたんだろうか。大きな妖精の顔を見上げても彼はおいしそうに肉まんを頬張っているだけだった。













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