short | ナノ






恋をしている女の子は綺麗だとよく言われているが、それはどうやら本当らしい。仲のいい、いつも一緒にいる親友がまさに今恋をしているからだ。もともとサバサバしていて、色恋には興味がなさそうな顔をしているのだけれど、どうやら興味が無かった訳ではないのだ。今まで恋をする相手が居なかっただけであって、彼女は普通の年頃の女の子だった。私も、いいなと思う人は何人か居たけれど恋と言うまでのものは今まで無かった。
親友がその人を見つけたのは高校3年に上がって直ぐだった。顔が物凄く好みだと言って、部活をしている姿を盗み見たりするようになって、私もどんな人なのか気になって見に行ってみたらバスケ部の宮地清志だった。彼と私は去年、今年と同じクラスで結構話もする方なのだけれど、まさか親友が彼のような男が好みだとは思っても見なかった。それと同時に、宮地を見て頬を染める親友を見てどうしてか胸が痛んだ。理由は分からない。でも確かに痛んだのだ。

「教科書忘れた」
「見せてくださいだろーが」

運悪く宮地清志とは二回目の席替えで隣になった。よく忘れ物をする私の世話を焼いてくれる。文句を言いながらも自分から机と椅子を私のほうに寄せてきて、私によく見えるように置いてくれる。紳士だなぁ、見た目に寄らず。そんな風に思うと、彼には惚れる要素が多くあることに気づく。見た目も悪くないし、部活ではレギュラーで、努力家で、頭も良くて、紳士的で、少し俺様要素があって、たまに強引で、結局優しくて。どうしてこんなに彼のいいところばかり知っているのだろうか?

「なんだよ、じろじろと」
「なんでもないでーす」

大きな手で私の頭を握ってきて、そこでまた、掌大きいなとか新しく知って。どうして私は彼のことをこんなにも見てしまうのだろうか。友達に情報を流すわけでもないのに。

「睫も、長い」
「は?」

顔を近づけられて、今まで注意して見ていなかった顔のひとつひとつのパーツにも眼がいった。くっきりした二重は長い睫で縁取られていた。肌の色だって良く見れば白い。ニキビすら見当たらない綺麗な肌。
非のうちようが無い人間なんて居るんだ、としか言えなかった。でも、どうして私が彼を見てしまうのかは分からなかった。

「俺より、お前のほうが綺麗な睫してる」
「は」

どうしてか、急に顔が熱くなった。息が触れそうなくらい近づいた距離に、目の前に広がる端正な顔。動機もなんだか激しい。
もしかして、私はこの男に恋をしているのではないか。
そう考えると、妙にストンと私の中のわだかまりが納まった。どうして彼を見てしまうのか、彼のいいところばかりが目に見えてしまうのか、それは私が、彼に恋をしていたからだ。親友が彼に恋をして胸が痛んだのも、私の好きな人をとられると勝手に脳が反応していただけだ。

「ほんとほんと。」
「自分より圧倒的に綺麗な人に言われても嬉しくない」
「は?」

今までならきっともっと上手くやり過ごせていただろうに、今はフイッと顔を背けることしかできない。これも恋する乙女の行動なのだろうか。だとしたら、一刻も早くいつも通りに戻らなければ回りに私の気持ちがバレてしまう。それがもし親友だったら、私は大事な親友を失ってしまうかもしれない。それだけは避けたかった。こんな、私のちんけな恋心とも言いがたい気持ちのためにずっと培ってきた友情を失うなんてばかげたことはあってはならない。

「お前な、俺がせっかくほめたのに」

ギリギリと頭をつかんでいた手に力がこもる。満面の笑みなのに、怒っている。これは部活中に彼がよく後輩の緑間君や高尾君にしている表情と類似していた。クラスの人たちは私達がこんな風にしていても、またやってる、位にしか思っていないようで、もはや誰も突っ込んでくれる人はいない。

「いたたたた」
「素直に喜べ」
「うれしーですー」

よし、と言って手を離した宮地清志は同じ様に笑っていたが、それはさっきとは違って楽しいときの笑顔だった。彼にとっての私は何なんだろうか。もし、私が彼のことを好きだと知ったら彼との友情すら崩れてしまうのではないだろうか。彼の様子だろ、私のことを異性とは意識していないだろう。
やはり、この気持ちは一生心の中にしまっておくべきものなのだ。

「お前らほんと仲良いな」
「べつに」

何気なくクラスメイトが言った言葉に真っ先に反応したのは私のほうだった。宮地清志は一瞬止まったが、直ぐにどの口が言ってんだ?とか言いながら、また私の頭を片手で掴んで締め付けた。
よく男女の仲に友情は成り立つのかと言う質問を聞くが、私は成り立つと思っている。これまでも、これからも、私はきっと恋愛感情よりも友情を優先させるだろう。

「ほんとに可愛げない口だな」
「すいませんねー」
「でもそういうところも   」

宮地清志がさっき何と言ったのか、それは私の耳には届かなかったことにした。動作を停止した私を見つめる宮地清志の顔は、さっきより赤みを増して、緊張した面持ちだった。

「そういうの、簡単に言わないほうがいいよ」
「な…」

彼にも私が無かったことにしようとしていることは伝わったのだろう。しかし、それ以上彼は言及してこなかった。
それでいい、それでいいのだ。





――――
共依存様に提出




第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -