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※二年越しのプロポーズと同じ設定です
純真な高尾君しか受付けないよって方はお戻りください。





そもそも、あの時あんな風にタイミング良く指輪を準備できるものなのかと言う話だ。まるで名前が子供ができたと言うのを待っていたかと疑ってしまうのも仕方のないことであろう。かねてより、高尾は彼女を自分だけの物にしてしまいたいと思っていたのだ。酒が入る度に緑間にこぼしていた願望、それは緑間が高尾を疑うのも無理はない要因であった。


「早く結婚したい。俺の収入ならやっていけると思わねー?」
「早く指輪を渡してしまえばいいだろう」
「だってさ、まだ名前は大学生なんだぜ?断られたら俺死ねる」


院生とはいえ医者を目指す者としてアルコールを控える緑間とは逆にビールを煽る高尾は大分酔いが回っている様子だったが意識ははっきりしていた。


「だから、絶対断れないような状況ないかなって」
「…」


既成事実を作ればいいなどとは言いたくないが、それしか緑間には思い浮かべられなかった。おそらく緑間が高尾の立場ならその方法にも出ただろうがそれとこれとは別だ。自分の意志ならともかく、今自分がけしかけて良いような簡単な問題ではない。


「子供とかかな、やっぱ」
「一概に肯定できる問題でもないし、それには絶対の覚悟が必要なのだよ」
「…わーかってるって」


そんな話をしてから半年後、二人の結婚が決まれば疑わずには居られないのが普通であろう。


****


確かに緑間とのやりとりは高尾の行動に何らかのきっかけを与えたのは事実だったが、高尾和成は周囲が思っているよりはるかに貪欲な男だった。率直に言うなら、彼は緑間とあの会話をするよりまえから何度も既成事実を作ろうとしていたのである。避妊具に無頓着な名前を良いことに、細工をしてある物を使ったり、意識が朦朧とするほどまでに弄び生での挿入も何度かしていた。もちろん名前に何度か避妊しているのか怪しまれる時もあったが、高尾に絶対的な信頼を置いていた年下の彼女は上手く口車に乗せられ、気にしていなかった。
見ようによれば最低とも取れる行為が、見境なく行われるようになったのが緑間とのやりとりの後からだというだけなのだ。


「高尾、ごめんなさい」


そう言いながら名前が涙を流したあの日、気が狂ってしまいそうなほど歓喜した事を高尾は一生忘れないだろう。なにも知らないまま自分の子供を孕んだ愛しい女。全てが彼の思い通りだったのだ。薬指に嵌めてやった指輪は高尾にとって二度と外れない首輪ようなものだった。
その夜、身重である名前を気遣い抱き締めるだけで手を出すことはなかったが高尾の形のよい唇が終始つり上がっていた事を眠っていた名前は知らない。その時、もしも名前が中絶を考えていたらきっと、今のような平和な結婚生活は無かったと高尾は言う。例え彼女の心が壊れようとも誰の目にもつかない場所で彼女を囲っていただろう、と。


「ただいまー」
「パパおかえりなさい」
「お邪魔します」
「真ちゃんだ!ママ!」


あの時の子供も既に4歳になった。家に帰ると必ず玄関まで出迎えに走ってくる愛娘を抱き上げる高尾の隣で緑間は頬を綻ばせた。家族とは暖かいものだ、と、この家族を見る度に再確認しているのである。


「おかえりなさい。緑間先輩こんばんは。」
「しんちゃん!」
「しんちゃんだ!」


奥から顔をのぞかせる名前と、3歳になる双子。長女は名前に似ているが、双子は高尾そのものだ。足に纏わりつく双子を蹴ってしまわないように、そっと先を急かすように歩いても意味がないのは過去の経験で分かっているが、片手にラッキーアイテムを持っている手前、二人を抱き運ぶことはできない。

「真ちゃん和華お願い。俺が真琴と真尋抱っこするから」


そう言って高尾は長女を緑間の腕に渡した。双子は高尾が抱き上げると、本当に高尾が三人居るように見えてしまう程似ていた。ぎゅうぎゅうと緑間の首に腕を巻きつけてくる和華とは全く似ていないが、やはり家族である。


「何してるの?早く入ってきたらいーのに」
「今日はね、和華のたんじょーびだからオムライスなんだよ!」


四年前の事実を高尾以外は知らないだろうが、それでもこんなに幸せな家庭なら良い。そして緑間の疑問もまた消えていった。





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