ゆっくり退場していく卒業生を涙を堪えながら拍手で見送る。近くに座っている友人は最早号泣。定番ソングもさらに涙腺を刺激しやがるぜぇ…!にしても今日の幸村先輩マジかっこよすぎ。儚さも増してるし、うああああ、先輩卒業しないで!と叫びたい。でも、幸村先輩と話したこととか無いしなぁ。でもバレンタインは友人と一緒に渡しに行ったんだよね。あ、ちなみに友人は赤也君狙いてか、赤也君をゲットしてしまった後です。まぁ、似たもの同士だし理解理解。 ホームルーム後、赤也君と友人と校庭で卒業生を待った。どうしても一緒に居てくれと頼まれ、渋々だ。だって今幸村先輩見たら絶対号泣しちゃうもん。友人の頼みじゃなかったら断ってる。 「あ、幸村部長!こっちこっち!」 「!」 人混みが割れるみたいに道が出来て、向こうからはテニス部の先輩方がぞろぞろと歩いてきていた。あーやっぱ、幸村先輩が一番カッコイいな。 「卒業おめでとうございます!」 「ああ。ありがとう」 赤也君は先輩方に可愛がられているから、丸井先輩や仁王先輩にいじられている。友人も赤也君繋がりで交流があるから、普通に話をしている訳。なんだ、私帰っても大丈夫そうじゃない?そう思って、そろりとその場を離れようとしたときだった。 「あ、ねぇ、名前ちゃん」 「え、?」 「一緒に写真とらない?」 なななな、幸村先輩が、私の名前知っててくれた!しかも、一緒に写真とらない?だって!なんか、感動だわ。幸村先輩は柳先輩にカメラを渡し、私の横に並んだ。心臓が爆発しそうなくらい活発に動いてる。幸村先輩に聞こえませんよーに! 「撮るぞ」 「うん。ほら、カメラ見て」 私は緊張で顔が引きつったままだったに違いない。だって、幸村先輩が近くて、しかもいい匂いするし、鼻血出なかっただけマシ! 「良かったら第二ボタン貰ってくれない?」 「!…あ、の、私で良いんですか!?」 「そのために死守してきたんだけど?」 確かに、他の先輩方はどこかしら毟られた後だ。仁王先輩に至っては髪ゴムやワイシャツのボタン、もちろんジャケットのボタンも、何もかもが無かった。服着てるだけましだよ、なんて幸村先輩は言っている。その点幸村先輩はどこも悪い所なし。装飾品も揃ってる。奇跡だわ。 「ね、何が欲しい?何でもあげるよ」 「え、な、何でも!?」 「うん」 幸村先輩がほしいです!とは言える訳もないのだが、この機会に何かは貰っておきたい。 「じゃあ、ボタンください」 「じゃあとって」 まさかのセルフサービス!ドキドキしながら第二ボタンに指をかけて、思い切り引きちぎった。私の手のひらにあるボタン、大切にします。 「ねぇ他は?まだいっぱいあるよ」 「え!いや、私もう満足なんで、大丈夫です!!」 第二ボタンを握ったまま首を大きく横に振って否定を表すと、幸村先輩はムスッとした顔をした。なにが不満なんですか! 「精市、彼女が困っている。」 「だって蓮二、俺がこんなにしてあげてるのに」 「お前はわかりにくすぎるんだ。いや、ひねくれているのか」 2人のやりとりを首を傾げながら見ているしかない私は視線で友人や赤也君に助けを求めたが、みんなニヤニヤしながら見てくるだけ。 「あの、」 2人の会話に入れず、しかも周りからの視線も痛い。そこでようやく助け舟を出してくれたのは丸井先輩だった。こそこそっと囁かれた言葉に、思わず赤面してしまう。 「そっそんな事言えませんよ…!」 「いいから言えって!」 「無理ですよ!」 幸村先輩もようやく私に興味を示してくれてきたのか、なんか、睨まれてる?いや、私じゃなくて丸井先輩が睨まれてるのかな。 「…丸井?」 「ちちち違うんだよぃ!な、苗字!」 「えっ!は、はい!」 さらに丸井先輩は私に言えよ、と合図を送ってくる。お前が言わなかったら被害を被るの俺達なんだよぃ!と目で言われてるような気がして、若干苛立ち気味な幸村先輩を見上げた。 「なんだい?」 「ゆ、幸村先輩、あの」 「ん?」 丸井先輩の期待の眼差しが…!いや、でも、ここまで言っちゃったら何か言わなきゃな訳なんだけども。うああああ!マジか、言っちゃうのか私! 「幸村先輩…を、…く、くくだ、…ください!」 シーン…と周りの音が消えたような気がした。恥ずかし過ぎて顔を上げられない。丸井先輩の嘘つき!幸村先輩ドン引きじゃないか!いろんな意味で泣きそうになっていると、さっきまでフリーズしていた幸村先輩の手が肩に置かれた。そろっと視線を上げると、満面の笑みを浮かべた幸村先輩が。 「あ、あの、ごめんなさ…」 「いいよ」 頭を下げようとした私を包んだのは幸村先輩の、柔らかい香りだった。ふわ、と香る優しい香り。 「あげる」 「…ぇ」 「あ、俺、わがままだから。ちゃんと言うこと聞いてね」 ちゅ、と頬に落とされた唇。周りからは悲鳴が。 ああ、なんだかもう頭がショートしそう。 |