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蘭様リクエスト!!





幼なじみというポジションは、居心地が良すぎた。物心ついたときから私の胸を甘く焦がしている思いを、伝える勇気さえ失わせる程に、そこは暖かくて、心地よかった。


「名前、おまたせ」
「全然待ってないよ」


幸村の部活が終わるのを待つのは、ミーティングの時だけ。週に一度有るか無いかの、この時間が私と幸村を"幼なじみ"としてつなぎ止めている。他愛の無い話をしながら帰る道のりは、手放すことが出来ない。


「明日さあ、」
「うん?」
「部室で、待ってて」
「部活有るのに?」
「ううん。明日は休み。」

何か大事な話でもあるのだろうと、私は何も考えずに了承した。その後幸村が少し緊張したように何かを言い出そうとしていたのには気付いていたけれど、気のせいだと目を背けた。そこで、ああ恋かな。と直感で思ったのだ。キューピットになれるような相手なら良いけどな。

(そうすれば、私も吹っ切れるハズだから)

空を仰いで吐き出した息は、白くなって、溶けた。
そして翌日の放課後。私は幸村より先に着いてしまったようだった、鍵の開いていない部室。仕方なくしゃがみこんで幸村を待っていたら直ぐに、息を切らせて向こうから走ってくる姿が見えた。


「ごめん、待った?」
「んーん、全然」


ガチャガチャと鍵を外した幸村は私を先に中へ入れた。ベンチに腰を下ろした幸村と少し距離を取って私は立ったまま。


「で、何?」
「…名前は、好きな人、居ない?」
「…」
「居ないなら、俺と付き合って」


幸村の目が、本気だと私に訴えかけてきた事で、私は冗談だと笑うことが出来なくなった。内心、嬉しかった。でも、長年培ってきた幸村への思いは相当ひねくれてしまっていたらしい。だから、私の口からは思ってもいない言葉が飛び出した。


「ごめんなさい」
「…俺は、ずっと名前と居て自惚れてた?」


ベンチから腰をあげて、一歩一歩、幸村が私に近づいてくるのと比例して、私の足も後ろに下がる。とん、と背中が誰かのロッカーに付いた。逃げ場は無い。幸村が私の前に立つ。
バァン!と嫌な音がすぐ隣で起きた。幸村が、ロッカーを殴ったのだ。


「何か言って?」
「…私、は…幸村に、っ、釣り合わな、いし」


幸村から目が離せない。


「それは名前が決める事じゃない…」
「嫌、嫌だよ。幸村なんか、嫌い」
「…ふざけるなッ!」


再び幸村がロッカーに拳をぶつける。びくりと無意識に体が震えた。どうして幸村がこんなに不機嫌なのか、分からない。私なんか、星の数ほど居る女の一人なのに。


「嫌いなんだったら、なんで、そんな…泣きそうな顔、するんだよ…」
「だって、あんたが…」
「言葉遣い」
「幸村が、好きなんて、言うから…っ!」


幸村が私の幸村になってくれるのは嬉しいのに、素直になれないのは、今の"幼なじみ"というポジションを、手放せないから。幼なじみに終わりは無くても、恋人には、終わりがあるかもしれない。


「…何を、そんなに、怖がってるんだい?ファンクラブなら黙らせるし、絶対名前以外「違うの」


幸村が必死になっている所を、久しぶりにみた。幸村の服をキュ、と握りしめて、もう一度幸村を見上げた。


「嫌いじゃないの…でも、関係が、変わるのは、怖い…」
「何が、怖いの?」
「幸村に、いらないって言われたら、彼女じゃ無くなったら、私の居場所無くなっちゃうよ」
「…馬鹿」


力強く幸村の腕に抱かれた。骨が軋みそうな程強く。そして幸村は耳元でもう一度、本当に馬鹿だよと囁いた。涙が、幸村の服を濡らしていく


「俺が名前を解放するのは死ぬときだよ」
「ゆき、む、…」
「ね、俺の彼女になってくれるよね?」


私は何も答えなかった変わりに、幸村の背中に、ゆっくりと手を回した。
クスリと幸村が耳元で笑ったような気がした。


「いつから…?」
「初めて会ったときから」


初めて会った時、私も、そう。15年間、幸村だけが好きだったんだ。




(これからも、ずっと)


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