総体が終わった三年は、勿論引退。不完全燃焼。そんなの今更言ったって遅いけど。毎日夜遅くまで体育館で声を上げていたのに、それがなくなって心にぽっかり開いた穴。どうしようもなく寂しくなって、そのたびに思い出す最後の試合。どうして、勝てる相手だったのに。調子が悪かったんだから仕方ないなんて言えなかった。みんなが頑張っていたのに、私のせいで負けたのだ。 立海の殆どの生徒は高校へそのまま持ち上がり。勿論私だってその内の一人。他の三年は毎日のように部活へ行って、後輩の指導をしている。名前も行こうよ。と何度となく誘われたがそのたびに理由を作って行かなかった。私みたいな人は少ない。みんなそれぞれの部活へ行って、高校でも続けると言う意志を示しているんだ。でも、そんな中でさえ、同じように毎日そそくさと家に帰る人も居た。仁王、仁王雅治。私がずっと好きなひと。好きだからこそ仁王の事を見ていれば、見ているからこそ、仁王も私と同じでテニス部からぱったりと姿を消したことも分かった。仁王はどうして部活に行かないのかなんてどうでもよかった。仁王も同じなんだなって思えればそれで幾分か心が安らいだ。 「苗字さん」 「あれ、幸村君…」 「仁王知らない?」 「仁王君?さぁ、もう帰ったんじゃないかな。いつもさっさと帰るみたいだし」 「そっか…」 困ったように幸村は笑って、苗字さんは帰らないの?なんて聞いてきたから今から帰るんだよ。と返すと部活行かないの?と返された。行かないよ。と言えば幸村はそう、とだけ行って踵を返した。彼は今から部活なんだろう。だって部長だったもんね。私なんかとは大違いだ。私も荷物を纏めて早く帰ろうとしていると、さっき幸村が探していた仁王がダルそうに教室に入ってきた。 「仁王君、さっき幸村君が探してたよ」 「ああ、廊下で会った」 そこで会話は終わってしまうのはいつものことだったけれど、それが凄く寂しかった。 「苗字は部活いかんの?」 「え…?あ、うん」 「高校では、バレー辞めるらしいのぅ」 「まぁ、ね。」 誰から聞いたのだろうか。でも私は高校ではもうしないって決めたんだ。あの試合のような情けない思いしたくないし、また、メンバーに迷惑をかけるのが怖い。 「俺も、テニス辞めるか」 「…辞めるんだ」 「柳生は中学までしかせんのじゃと。」 「そっか、ダブルスだもんね」 相方が居なくなると知ったら、私もやめてしまうだろう。だから、仁王の辞める理由も理解できた。 「お前さんが辞めたら、他のメンバーはどう思うんかのぅ」 そうだ。テニスのダブルス事情と、私のバレーは訳が違う。六人で一つなんだ。他の五人は続けるのに、私だけ辞めたらみんなはどう思うんだろう。逃げたみたいに思うかな。それとも新しい誰かと、まるで私が居なかったみたいにプレーするのかな。だけどそんなの当たり前で、あのチームに私が居なければならない理由にはならない。 「苗字の事、必要としとるぜよ」 「そ、んなの…知らない」 「バレー、好きなんじゃろ」 好き、好きだよ。だから、みんなで揃えたストラップもいつまでも携帯に付いているし、体育の時間が楽しみだし、ミサンガも外せない。 「俺は、バレーが好きで、体育館で動き回る名前が好きナリ」 「え…」 驚いて顔を上げた瞬間に香ったのは仁王の香水で、確かに唇には仁王の温もりが残っていた。ぽたりはらり、と頬を涙が滑り落ちた。 「わわた、わたし、も、だよ」 「…」 「テニスコートに、居る、にお、が好き」 「ずっと見とったよ」 「私だっ、て!」 ぎゅっと抱きしめてくれた仁王の背中に手を回した。知ってた。最後の試合のとき、こっそり仁王が見に来ていた事を。気づかない振りをしたってどうにもならなかった。ただ、応援してくれているのが嬉しくて、なのに、私はあんなみっともないプレーしか出来なかった。 「最後の試合、見にきてた」 「気付いとったんか」 「私、ダサかった」 「でも、頑張っとった」 でも、でも、負けたんだ。私のせいなんだ。ずっと私の中に残っていた後悔を全部洗い流してしまうほど、仁王の腕の中で泣いた。誰かに、頑張ったねって、言って欲しかったのかも知れない。私を認めてくれる人が欲しかった。 「次は、後悔せんように、な」 「っ、うん」 ひとしきり泣いて、すっきりした。泣いて真っ赤になった私の目をみて、兎みたいだと仁王は笑って私の手を引いた。 (俺も、柳生説得するかの)(柳生君もきっと、テニスしたいって!) ((コートの中の君が好き)) |