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俺は最近、珍しい人間に出会った。そいつは元々比嘉中のテニス部マネージャーだった女で今年から転校してきた。とは言っても全く訛りなんてないし、寧ろ沖縄に居たなんて事が嘘のような白さで、とにかく可愛い一つ下の後輩になった。彼女のマネージメント能力は、合同合宿などではかなりの好評で、そんな彼女が氷帝に来たのだからやはりテニス部に、と。榊監督に言われた跡部がそいつに訪ねに行ったとき、近くに居たからと無理やり引きずられて連れて行かれた先で俺はあいつに圧倒された。
沢山のギャラリーに囲まれて楽しそうに笑っていた彼女は、跡部が「テニス部のマネージャーになれ」と告げると、煌びやかな笑顔で衝撃的な言葉を吐き捨てた。


「日本語喋れよ、跡部サン」


その言葉に、周りにいたギャラリー達は顔を真っ青にして身を一歩引いた。跡部は信じられないものを見るような目で見つめている。当の本人は全然全く微動だにせずに薄ら笑いを浮かべている。


「お前、耳鼻科行けよ。紹介してやる」
「私は至って正常ですケド。跡部サンは精神科行ったらどうですか?」
「おい宍戸。噂の苗字名前ってのは本当にこいつか?」


俺に話を振るな。確かにクセのある奴だとは聞いた覚えがある。返答に困っていると、そいつは跡部を見上げながら目をパッチリと開いて何やら楽しそうに口を開いた。


「跡部サン、跡部サン」
「なんだよ」
「ホクロ押して良いですよね」
「何で肯定文なんだよ、アーン」
「だってそのためのホクロですから」
「勝手にホクロの存在理由決めてんな」
「じゃあ何でそんなとこに付けてるんですか?」
「知るかよ」
「あーっ、今の発言は許し難い!全世界のホクロに謝れよ!」


まるで漫才のようなスピード感。不覚にも笑ってしまった結果、跡部に睨まれ、苗字にはキラキラした眼差しを送られ。俺にどうしてほしいんだこの子。


「で、マネージャー」
「しますよ」
「だったら初めからそう言え!」
「やぁだ、すすろてっぱいったらせっかち!」
「すすろじゃねぇ!ししどだ!」


まじ何なんだこの子。それでもこいつの作り出す空気は好きだ。岳人なんてドツボに嵌ると思う。


「顔はソコソコだが、頭は残念だな」
「黙れ!シャラップ!跡部サンに言われたくないぃぃ」
「ハッ!ほざいてろ!」


跡部にまで苗字のノリが移ってきたのか、凄くウザイ。こいつらまじでどーにかしてくれ。駆除希望。
忍足が居たら少しはマシなんだろうけど、いや、待てよ。忍足はああ見えて関西人(モドキ)だった。ぜったい跡部以上のツッコミを繰り出すに違いない。テニス部の先が思いやられる。日吉あたりは呆れて物も言わないんじゃないか。


「俺、もう知らねー」
「えええ!知って!私のこと知ってくださいよ!」
「なんでお前はそんなに必死なんだよ!」


俺たちの騒ぎを聞きつけた野次馬達が教室の前に集まってきた。その中には勿論テニス部の奴らも混ざる訳であって、いつの間にやら全員集合。
変態、がっくん先輩、チョタ、若、KABA.ちゃん、ジロー先輩。と名前はそれぞれを指差しながら呼んだ。


「KABA.ちゃんって別人だろ」
「あ、かばちゃんですよー表記ミス★」
「なんで日吉だけ普通なんだよ」
「だぁってぴよって呼んだら怒るんですもん」


当たり前だろう。あの日吉がそんなふざけた呼び方を許すわけがない。
そんなこんなで氷帝に新しいマネージャーが出来た。ふざけた思考回路のふざけた女子だが、確かに仕事はカンペキ。
これから先の部活進行はスムーズだろうから、まあ、よしとする。





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