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最近、俺の事を慕ってくれる女の子が一人増えた。二つも年下の今年入学してきたばかりの子だ。
その子は図書委員で、俺が利用する時間帯に当番をしていることが多かったから少しずつ話す様になったのだが、最初は妹みたいだと思って構っていたはずなのに、気がついたら嵌っていた。今まで何人かとはお付き合いなるものをしてきたが、その中の誰にも当てはまらないような子で、自分の好みとは外れているのだろうけど好きなものは仕方ない。もちろんまだ付き合っている訳ではない。

「あーッ!!幸村せんぱーい!!」

二階の渡り廊下から、彼女の声がした。手が振り切れそうなくらい振って、心なしか犬の尻尾と耳が見えそうだった。いつもの事ながら犬みたいな子だと思う。

「そっち行ってもいいですか?」
「いいけど、苗字、」
「はい!」
「うるさい」

満面の笑顔で言うと、叱られた犬のような顔になったが直ぐに「静かにするので行きます!」と姿を消した。階段を下るだけでこの中庭には着くし、直ぐに来ることは分かっていたがもう一度読んでいた小説に視線を落とした。

「先輩!」
「走らなくても逃げないのに」
「そういってこの前逃げたじゃないですか」

からかってやろうと思って鬼ごっこをしたのはまだ記憶に新しい。一生懸命息を切らしながら追いかけてくる姿が可愛くて、結局休み時間いっぱい使って走らせてしまったのだけど。いつも鍛えている俺とは違って殆ど運動をしない彼女は喋ることも難しいくらいゼェゼェと息を切らしていたのもだから、思わず写メを撮ったんだ。

「そうだったかな?」
「そうです」

拗ねた顔をして隣に腰を下ろした苗字は、読んでいた本に視線を落とした。昨日借りていった奴ですね。とタイトルを見せなくても分かるところがすごいと思う。パッと見、とても本なんて読んで居なさそうな印象を持ってしまうが、本当はかなりの読書家なところが好印象だった。

「本じゃなくて私の相手してください」
「今日はなんか生意気」

鼻をつかんで少し引っ張ってやると変な声を出して抵抗を見せた。

「ちょ、ちょ、先輩、やめてください」
「え?構ってるんだけど?」
「もっと構い方ってやつが…」

じゃあ、とやわらかい頬をつかんでモムモムしてみるとそれもまた気に食わなかったようだが諦めて抵抗はやめたらしい。その触感を暫く楽しんだ後で離すと睨まれてしまった。まぁ、座高の高さの違いもあるからか俺には上目遣いにしか見えなかったけれど。役得役得。

「先輩私をおもちゃだとおもってませんか」
「…まさか」
「その間!絶対思ってる!」

怒り方も可愛いと思ってしまうのは惚れた弱みだろう。つまり怒られても全然動じないということで、むしろもっと怒ってくれても構わないのだが。

「本当だよ。」
「もー…」
「苗字」

ぷんぷんとまだ少し拗ねているようで、それがあまりにも可愛くてつい、つい、手が出てしまった。自分に近いほうの手をつかんで引き寄せると、割と簡単にこちらに倒れて来てくれて、その勢いで額にキスをした。もう一度言うが、俺達はまだ付き合っていない。ひょっとして恋愛対象として見られていないのではないかと思ったが、今の反応を見たところその線は薄いだろう。

「…え?」
「どうしたの」
「…いま、…キス…」

額に手を当てて口をパクパクさせているから、次は唇にしてやろうかと思ったがまだそれは早いので我慢。苗字はじわじわとさっきのことが理解できてきて赤くなった顔を隠してしまった。

「好きだよ」
「…反則ですよ…!」
「フフ、そう?」
「だって、先輩今までそんな素振りしなかったし…私だけ、ドキドキしてて」

俺もそんな素振りを見せなかったかもしれないが、苗字だってそれは同じだと思う。俺は脈が無いのかと思ったし、結果としては良かったのだが、もし俺が行動を起こしていなければずっと平行線で居たのかもしれない。

「俺もまさか苗字が好きになるとは思わなかったよ」
「でしょうね…!」
「でも、結果として好きになってる」

好き、と言う単語に反応してまた顔が赤くなった。初心っていいなと思った瞬間だった。少なくとも今までの彼女は初心ではなかった。それだけは確かである。

「で、返事は?」
「…分かってるくせに聞くんですか」
「うん」

今まで自分から好きだと言ったことは無かったが、案外、自分からしてみると相手の言葉が聞きたくなるものだ。答えは想像できているのに聞くまでの間、ここまでドキドキするのだ。今まで俺に告白してきた女の子達はこれよりももっとドキドキしていたのだろう。そう思うと蔑ろにして適当に振ってしまった子には悪いことをしてしまった。

「……す」
「え?」
「好きです…!」
「知ってる」

次は一瞬ではなくしっかりと額に唇をつけた。目をしっかり瞑って睫をふるわせられると、ついさっき唇はまだ我慢しておこうと思ったのにその決意が揺るいでしまう。

「あまりそんな顔をしないように」
「え?」
「男は皆狼だっていうだろ?」

ついに我慢ならずに軽く唇を軽く触れ合わせた。



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