20000 | ナノ




気がつけば、夏休みがあと一週間を切っていた。毎日ただがむしゃらに部活と家の往復をしていたせいで、日にち感覚か狂っていた。


「今年の夏も終わりかぁ…」


まだまだ日差しは強いし夏真っ盛りな筈なのに名前は部日誌を書いている手を止めてカレンダーを見ていた。その言葉の真意は計りかねたが、俺の視線を感じて視線をこちらに向けた。


「あんまり、夏らしいことできなかったね」


そうだった、付き合っているからこそ、季節のイベントは欠かさずやってきたのに、この夏は何もしていない。だから、なんだか切なそうにしていたのか。
気がついてからの計画は早かった。帰宅してすぐに名前以外のレギュラーにメールを回した。今日したい、いや、今日じゃなきゃいけないような気がしたからだ。


「にしても、急すぎるだろぃ」
「思い立ったが吉日って言うしね」
「そーれーよーりっ!名前先輩はまだッスか?」
「今から迎えに行くんだよ」


メールで指定した場所に時間通りに集合したメンバーを引き連れて向かう場所は名前の家。もちろん、メールをしていなかった名前は俺たちが集まっている事は知らない。
インターホンを鳴らすと、出てきたのは名前のお母さんだった。面識があるとはいえ思いがけない来客にビックリしていた。


「名前さん、居ますか?」









夕飯を食べて、少しうとうとしていた時だった。吃驚するくらい突然部屋に押し入ってきた母に眠りを妨げられたのだ。凄くいい感じに寝ようとしていたせいか、まだ少しボーッとしていた。


「なに」
「幸村君来てるわよ」
「…は?幸村…?」


完全に部屋着のままなことを気にするまでもなく部屋を飛び出ると、玄関には確かに幸村が立っていた。


「今から出られる?お母さんには許可もらったんだけど」
「?大丈夫だよ」
「ああ、ちゃんと上着着てからだよ」


窘めるように私を上から下に幸村は見た。キャミに短パンって言うラフすぎる格好が気になるらしい。見られたのが幸村だったからよかったけど、流石に他の人だったら恥ずかしかった。
部屋に帰って、カーディガンを羽織り、再び外に出た。幸村しか居ないと思っていたから、まさかレギュラーが全員揃っているとは思わなくてちゃんと着替えなかった事に後悔した。


「名前先輩遅いッスよ」
「ごめんねーもうちょっとで寝てた」
「早っ!」


そんな事を話ながらみんなの手を見てみると、バケツやらビニール袋を握っていて、明らかに今から花火をするつもりだ。私にも言ってくれれば何か準備できたのに。と幸村に小さく呟くと、それじゃあサプライズにならないじゃないかと言われてしまえば私のちっぽけな心臓がきゅう、となってそれ以上の反論ができなかった。


「とりあえず移動しよう。」
「海?」
「ああ」


さり気なく繋がれた右手と、部活中には見せてくれないような優しい眼差しに息をするのを忘れそうになった。みんな居るのに、今の幸村は恋人モードだ。中途半端が嫌いな幸村は公私混同はしない主義で、部活ばかりだと付き合っていることすら忘れてしまうほど甘い雰囲気が無くなる。夏休み中はそれが長く続いたせいで、今、免疫が退化していて心臓に悪い。
最寄りの海岸に着くと、既にそこは準備万端で、誰が用意したのか聞かなくても分かった。柳しかいない。用意周到で無駄のない柳にはいつも尊敬しかできない。


「あまり遅くなるのもいけない。早く始めよう」
「よっしゃあー!」


柳の言葉に一番に反応したのは赤也で、直ぐにバリバリと花火の包装を破り中身を出し始めた。私もそれに加わろうと別の花火に手を伸ばした。
打ち上げ花火は仁王やブン太がどんどん消費していき、私は幸村としゃがんで手持ち花火を地道に消費していた。


「にしても、急だね。花火」
「名前に、何もしてあげてなかったからね」


そこでようやく、幸村が私が何気なく私の言った言葉を拾ってこんな事を企ててくれたのだと気づいた。隣にしゃがんでいる幸村の顔をほのかに照らしていた花火が消えた。


「こんな事しか出来なくてごめんね」
「ううん。ありがとう」


私にしか見せてくれない顔で、そんな事言うのはずるい。幸村は、私が幸村のしてくれること全部が幸せで、かけがえないものだって分かってない。


「嬉しい」
「…そう」


私達と少し距離のある場所で、仁王達の花火が点火された。ほんのり照らされた顔が近付いてきて優しく唇が重なったのは一瞬で、近くで見つめ合った。頬に添えられた幸村の手が後頭部に回ったらそれが合図。さっきよりも甘くてどろどろになってしまいそうになる激しいキスが待っていた。皆に見られるとかそう言うのはもう関係ない。今はこのまま触れていたいから。




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