I love you... | ナノ










優しい幸村君に何の違和感も抱かずにただ幸せを感じていたのは私だけだったみたいだった。主に柳君や蘭、仁王君は、いつ幸村君が前みたいに変わってしまうかと目を常に光らせていた。
比較的に暇な仁王君とは学部が同じなだけあって、よく会っていた。今まで避けていられたのが不思議に感じるくらい頻繁に。もしかしたらわざわざ仁王君が会いに来てくれているのかと錯覚してしまいそうなくらい。


「就活、どう?」
「あー…俺は大学院」
「!そうなんだ!」
「楓は?」


私は首を振って内定が無いことを示した。とは言っても、私は就活と言う就活をしておらず、内定が無いのは当たり前なのだけど。


「…ダメって言われてるの」


仁王君は誰に、とは聞かなかった。三年の秋を過ぎ、冬に差し掛かった今、真面目に就活をしていないのなんて私くらいなものだろう。


「そうか…」
「でも、私にはそれが一番向いてると思うし。」


この御時世だし。


「今日は?このまま帰るんか?」
「うん。幸村君も来るって言ってたから。」

きっと仁王君は私をご飯に誘ってくれようとしたんだろう。指折り数えられる程しか幸村君以外の男性と食事をしたことはないけど、仁王君とは、その少ない中でもよく食べに出掛けた。


「残念。じゃあまた今度」
「早めに言ってくれたら大丈夫だと思うから」
「あーじゃあ、来週の今日はどうじゃ?」


早速予約を入れてきた仁王君に笑みをこぼしながらスケジュール帳を確認すると、特に大事な用事も入っていなかったから二つ返事でオッケーした。


「また、時間とかはメールしよ。」
「おう。」


まぁ実際は幸村君の了承がなければ行けないのだけど、それは暗黙の了解ってことで。


「じゃあそろそろ行くね。」
「また明日」
「うん」


今年買ったニーハイブーツ。やっぱりヒールは高めのを買った。カツカツと踵を鳴らして歩くと自分に自信がつくような、強くなったような気がして好きだから。
仁王君と話ていた校内のカフェを出て、帰りはスーパーに寄らなきゃいけないとか、シャンプーの換えが無かったかもとか考えながら足早に歩いていると、不意に肩を叩かれた。吃驚して振り返ると珍しい人が立っていた。


「春日さん」
「氷帝の、」
「日吉です。すいません、ちょっと…」


律儀にお辞儀をした彼の頭を上げさせて要件を聞くと、何でもうちの大学の教授に届け物を預かってきたようで、案内してくれないか、ということ。丁度彼が会いに来た教授とは面識もあったから、案内してあげた。


「わざわざ東京から大変だったね」
「いえ。…それより、すいません。わざわざ」
「え?いいよ、そんなの。私も役に立てて嬉しいし。」


そう言うと、日吉君はフッと軽く笑った。それからは駅まで一緒に行ってさよならした。二駅先が私の家の最寄り駅だけれど、帰りにスーパーに寄るにはもう一駅先に行かなければならない。予定より遅くなってしまった分、早足になってしまう。幸村君にメールを入れたはずなのに返信が無いことも気掛かりだ。
しかもこんなに急いでいる時に限ってレジは混んでるし、変な勧誘に絡まれるし、挙げ句ナンパ。いや、もう、本当勘弁して。


「ねーちょっとお茶しよって言ってるだけじゃん」
「や、急いでるんで。」


さっきから何度振り切ろうとしても付いてくるお兄さんに、私は最終手段をとった。


「私、子持ちなんで、夕飯待ってる子供がいるの!」


私の経験上、これは結構使える言い訳だ。最近の若いママは凄く若いから、私が言ってもそれなりに説得力があるようで、しかも今日は買い物袋までさげているのだから完璧。案の定あきらめのついた彼は去っていった。
そんなこんなでようやく帰宅。


「ただいま」
「遅かったね。」


部屋に入るとすぐに幸村君に抱きしめられた。でも声色がなんだかいつもとは違うようで怖く感じた。


「幸村、君?」
「誰と会ってたの…?」
「え…っきゃ…!」


ドタンと床に投げ出された体。いきなり過ぎてまだ頭が付いていかないけれど、私を見下ろす幸村君の表情は数ヶ月前を彷彿させた。


「仁王じゃない」
「…ぇ?」
「誰の香水?」


誰 の ?
そもそも誰かの香水の香りが体についていた事自体が信じられないのに。そんな事聞かれても分からない。


「言えない?」
「っわ、わから…ないよ」
「…そう。」
「浮気じゃなっ「うるさい」


パンッと乾いた音と、痛む頬。力を抜いていたのだろう、以前と比べるとましだった。幸村君の浮気ラインがどこからかは知らないけど、私は本当に浮気なんてしてないとわかってもらいたかったのに、酷く心が痛んだ。


「なんで…」
「やっぱり、優しくすると駄目だね」


カチャカチャとズボンからベルトを抜き取った幸村君は、私のスカートを託しあげて下着を脱がしていった。


「幸村君やだ!やめて!」
「こんなに短いスカート履いてる楓が悪いんだよ」
「いっ、痛い!痛い…っ、やめてっ…!」


慣らす事もなく入ってきたせいで、血が出ているのすら無視して動く幸村君の表情は確認出来なかった。


<<



- ナノ -