I love you... | ナノ









鍵を開けていないのに、そっとノブに手をかけて回すと扉は何の障害もなく開いた。やはり、幸村君は来ているようだ。私が蘭の家に行っていた間、幸村君は何処で何をしていたのか分からないが、私は幸村君の気に障ることをした覚えがないのできっと大丈夫だろう。


「おかえり」
「あ…ただいま」


扉を開く音で私の帰宅に気付いた幸村君がブーツを脱いでいた私の前に立った。


「ご飯食べてきた?」
「ううん。まだだよ」
「じゃあ、今から作るけど大丈夫?」
「うん」


急がなくていいから。と私の頭を優しく撫でて幸村君が微笑んだ。ああ、今日は優しい幸村君だ。幸村君は、いつも怖い訳じゃなくて、私が何か悪いことをしなければ本当に優しくて、私の事を大切にしてくれていて。だからこそ私は別れに踏み切れない。
今も、さり気なく私の唇に掠めるようなキスをして、背中を押して中へ促した。


「今日はパスタにしようと思ってて。」
「いいね。楓の作る物は何でも美味しいけど」


コートを掛けて髪をシュシュで纏めて調理にかかった私の近くで、そんな私を眺める幸村君と他愛の無い話をしながらの穏やかな時間は心地よかった。一緒に食事をして、テレビを見て、そのままの流れで幸村君が泊まる事になった。そうなると、やっぱりそうなるわけで。


「ん…っ」


そう言えば、こんな風に優しく愛された事はなかったな、とやけに冷静に思っている自分がいた。それは当たり前のごとく幸村君には伝わってしまった。


「楓?」
「…、?」
「集中できて無いね。優しいと物足りない?」


その問い掛けに全力で否定する私を幸村君はさっきまで私を弄んでいた指についた液を舐めとりながら見下ろした。


「こんなに優しくしたことなかったからかな」
「!っあ…」


幸村君が、中に入ろうとしている。一番出っ張った部分までしか押し込まず、浅く抜き差しされる度に水音がして、羞恥を煽られる。でも私の口からお願いする事は恥ずかしくて、視線で訴えても幸村君は意地悪をしてくるだけで。シーツを握る手を離して幸村君の背中に回した。


「楓、好きだよ」
「んぁ、ああっ」


力強い腕に腰を引き寄せられて、じらしていた其れがゆっくりと私の中に埋まる感覚。幸村君しか受け入れた事の無い膣は、その形を覚えてしまっているのだろう。


「ふっ、ぅ、ァッ」
「っ、楓…」


幸村君の息が苦しそうに上がっている。吐息が首筋にかかるたび、それすら快感にしてしまうほど今までに無く感じている自分がいた。
ゆっくりと始まった律動でいつものポイントを的確に責め立てられる。


「アッ、やァ…っそこ、ヤ…ぁ」


必死に幸村君にしがみついて耐えていると、幸村君は動きにくそうだが、しっかり抱き締めていてくれた。首筋に何度も触れる唇から伝わる熱も、パタパタと動く度に落ちる幸村君の汗も、繋がっている部分も、今日は何故だか離したくないと思った。


「幸村く、っ、もぉ…イッ…」
「ああ、俺も…」


肌がぶつかり合う音が激しくなり、お互いに高ぶっていた。すがりついていた手を離し、シーツを握りしめる。不意に左手に幸村君の右手が重なって、手を握った。顔を背けたまま、視線だけを幸村君に向けると唇が重なった。


「っ…〜ん、ぁ、んんー…」


声はすべて飲み込まれてしまったけれど、体が麻痺して、中には温かい物が広がった。いつもなら辛いだけだったこの瞬間、別の感情があった。息を整えながら目を瞑っている私に幸村君がキスを再び落とした。額や頬、瞼といろいろな場所にキスを落とされ、心地よさに微睡みへ落ちた。
もしかしたら、毎回私が気を失った後、こんな風にしてくれてた?とは聞けなかった。


あの日以来、まるで今までの事が無かったかのように優しい幸村君に、最初こそみんな驚いたけれど一週間経った頃には馴染んでいた。昔のように皆と仲良くできるようになって、皆が、このままであってほしいと思っていたのに…長く続かなかった。









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