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朝早くやってきた千歳に急かされるように出かける準備をさせられ、電車に飛び乗ってからもう二時間は経ったような気がする。メイクもままならないままだったので、ゆれを気にしながらいつもと同じのナチュラルメイクを完成させ、千歳とおそろいのピアスをつけた。しかしさすがの私でもそれだけで二時間も過ごすことは出来なかったので、隣でうつろうつろしていた千歳に行き先を聞いたのが今、たった今である。


「俺の実家」
「へー実家か…そっかそっか…って、実家ぁぁ!?」
「もうあと一時間もすれば着くったい」
「いや、ちょ、まって?え?私聞いてないよ?お土産も買ってないし」


いきなりの情報にうろたえることしか出来ない私に対して千歳はいつも通りのふにゃふにゃした笑顔を向けてくる。今日のために頑張ってバイトしたっちゃ!と嬉しそうに言われるといつものノリでいい子いい子してしまいそうになった。そういえば最近すごいバイト三昧だなぁとは思ってたけど、まさか、新幹線代を頑張って稼いでいたとは思いもよらなかった。私はてっきり夏休み一緒に遊びに行くためのお金だと思ってたから。


「なんで、言ってくれなかったの…」


こんな、彼氏の実家に行くとか大事な事を教えてくれなかったというか、黙って計画してた千歳がなぜだかとても切なかった。きっと千歳は私を吃驚させたかっただけだとは分かってる。でもせめて新幹線乗る前に言って欲しかった。


「嫌?俺の実家ば行くん」
「いっ、嫌なわけないよ!ただ、せめて新幹線乗る前とかさ…」
「…」
「千歳?」


突然千歳が黙ってしまったからあわてて顔を覗き込むと必死で笑いをこらえていた。


「はははっ、そこ、突っ込むとこ、?」
「え?」
「ばってん、嫌なわけじゃなくて、良かったたい」


ぐしゃぐしゃと私の頭を撫でて頭にキスをされた。一応言っておく、ここは新幹線の中です。ニコニコと上機嫌になった千歳を見ていると何が辛かったのかとか、一瞬うかんだ不満も忘れてしまった。私もフッと顔の力を抜いて微笑むと、千歳の唇が私の唇を掠めた。


「着いたら、観光して、俺ん家で一泊」
「でも、着替えとかないよ?」
「俺の家にあったやつ、送ったちゃ」


まさかの宅配。でもまぁ、いいや。ご両親に悪い印象をつけてしまったらそれはもう仕方ない。私が頑張ればいいだけ。
千歳の言うとおり、一時間もしないうちに着いた。九州とか修学旅行以来だなぁ。昼食を取って、適当に観光をはじめた。しばらく歩いたところでやはり夏だけあって冷たいものが恋しくなってしまうのはしかたない。チラッと千歳を盗み見ると、分かっていたように私の手を引いた。


「おいひ〜っ!」
「ついとう」


口の端にクリームがついていたのを私がぬぐう前にまたもや千歳の唇が奪っていった。しかも今度は一瞬じゃなくてそのままの流れで舌の進入まで許してしまって、千歳がさりげなく持っていたパンフレットで隠したとは言え、近くに居た女子高生とかが(もともと千歳を観察していたんだろう)キャーキャー言ってます。


「っ、ば、ばか!」


離れたとたんにペシペシと腕をたたくと私の大好きな笑顔を見せた。


「照れとる顔も、むぞらしかね」
「むぞらしかじゃないっ!」


照れた私の顔を胸に押し付けるように横から抱きしめられて、もう、顔熱い。付き合う前はこんなキャラだとは知らなかった。いつもクールであんまりこんな、抱きしめたりとかキスとか、アレ…とかしないタイプかと思ってたのに。でも、今の彼を周りの人が知ってしまったら嫌だとも思う。私だけの千歳で居て欲しい。


「それ、食ったら行くばい」
「うん」


もうそんな時間か。夕方ごろ、千歳のご家族がそろう時間帯に到着するようにと指令があったから。ドキドキしないかといわれればするけど、でも楽しみといえば楽しみ。ミユキちゃんとは面識が何度かあるし、きっと千歳のご両親だ、悪い人たちではない。


「あ」
「ん?」
「彼女、紹介するの…名前が初めてだっちゃ」


ちゅうっとまた頬にキスをして、いたずらっぽく千歳が笑った。私が会う前の千歳を知らないけれど、そう言われれば悪い感じはしなかった。




10000hit 紫水様










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