10000 | ナノ









喉元まで出掛かった言葉を呑み込んで俺は彼女に噛みつくようなキスをした。俺達がしていることは世間からしてみれば人道に反した事だということは重々承知の事実で、それでも俺達…いや、俺は止められない。
昔から好きだった名前。臆病な俺は彼女に思いを告げる事もなく、挙げ句の果てには数年間音信不通にさえなっていた。 伝える勇気が無かった俺への戒めなのか、ある日偶然再開した名前は、既に他の男の物になってしまっていた。しかも相手は全くの駄目男で、指輪も無ければ、式も挙げられないような経済的に問題しか無い上に、浮気を繰り返す。当然名前の両親が許す筈はなく、同棲どまり。それを知ってしまえば、あんなに臆病だった俺でさえも名前を誑かせる結果になった。名前の弱り目につけ込んであわよくば俺の物にしてしまいたい。

 
「なんか、イライラしてる?」
「そうかも」
「…そ、っか。」


ベッドの上に力なく横たえていた腕を持ち上げて、名前は俺の頭をわさわさと何度か撫でた。何も聞かないくせに、知ろうとしないくせに、俺に愛を与えようとする君は愚かだ。あの人は暫く帰ってきてないから、と名前は言った。心置きなく名前の思考回路を俺でいっぱいにできる。さっきよりも激しく唇を求めたが、名前は足りないと言うかのごとく、俺の頭を抱え込んだ。


「全部、俺の跡だ。」
「自分が付けたくせに」


白い肌に所狭しと浮かび上がる赤は、確かに俺が付けた。名前も、それを望んだ。早くあんな男を捨てて俺を選べばいい。薄くなり、消えかけている場所に上書きをしながら俺を受け入れる場所を広げた。イイトコロをすべて熟知しているからこそ、名前には逃げ場はない。狂ってしまいそうになるような快感を受け止めきれずに悦楽に酔いながら涙を流す姿は、実に扇情的だ。


「もっあ、ちょうだい…っあぁ」
「まーだ」
「なんっでぇ…もぅ、くるしいよぉ」


そうやって俺を求めるくせに、俺を選んではくれない名前は狡い。名前の蜜が絡みついた指を名前の口に押し込んだ。


「せいいち…せ、いち、お願い」
「名前、もっと俺を欲しがって…」


俺だけを愛して。他の男のことなんかことなんか考えないで俺を、見て。


「っぁ───…」


俺を呑み込んだ名前の貪欲な穴はヒクヒクと更なる快感を望んでいた。

 
「動いてほしい?」
「…んっ、ぅん」


ぬち、と粘着質な音をたてて引き抜き、再び奥まで押し込む動作を繰り返せば繰り返すほど艶やかになっていく名前の声。背を反らせることで全面に押し出される双丘に舌を這わせ、歯をたてた。まるで、赤子が母乳を吸うようだと思った。


「あぁ、あ、っんぁ…」


ねぇ、名前?気付いてないかもしれないけど、今日は避妊してないんだよ?





私が幸村にすがり始めたのはもう随分前の事のようにも感じられた。彼氏にはほとほと愛想を尽かしていたから、私には罪の意識なんてこれっぽっちもなかった。でも、幸村は違ってるような気はしてた。幸村との繋がりが出来てからすぐに彼氏とは別れたの、幸村には伝えてない。幸村が私に同情してくれてるんじゃないかなって少なからず思ってたから。好きだよ、幸村だけが好き、何度も吐き出してしまいそうになった気持ちを飲み込んだ。私と同じ気持ちを幸村が抱いてくれていたらと何度も願った。
今日の幸村は少しばかりイライラしていて、そのせいか、激しかった。絶頂に達する寸前で何度も焦らされた。


「っ、名前…?」
「ん、んぁ、なっ…ぁ」
「…ごめんっ…」


ようやく達する事を赦されたのか、一段と律動が早まり揺さぶられた。快感で、なかなか結びつかない思考回路で幸村が謝った理由を探してみても分からない。何を謝ってるのと聞きたくても息継ぎをするだけで精一杯な私には到底できなかった。
深く深く貫かれて絶頂に達した私を追うように幸村も達した。そこでようやく幸村が謝った理由が何となく分かった。


「お腹、あつい…」
「…軽い気持ちでやった訳じゃないから」
「え…?」
「俺にしろよ…名前」


私の上に幸村が重なった。片口には幸村の息がかかって、抱きしめる腕は震えていた。


「俺の方が名前を大事にできるから、名前だけを、愛するから、」
「せーいち、私…」
「…うん」
「私…」


ここで、ちゃんと言わなきゃ。もうあの男とは別れたんだよ、って。幸村も私と同じ気持ちで居てくれたって分かった今では、何も気負いする事なんか無いのだから。私も、幸村が好きだから。


「私、あの男とは別れてるの」
「え…いつ、」
「精市とこんな関係になってすぐだよ…黙っててごめんなさい。」


驚いて一瞬体を離した幸村が、再び空気がぬけたみたいに降ってきた。ドクドクと幸村の心臓が脈打っているのが伝わって来る。


「元々、あいつのこと、あんまり好きじゃなかったんだって分かったから。」
「名前にはあんな男、似合わないしね」
「精市、大好きだよ」
「俺は愛してる」


クスクスと今まで無かったような和やかな雰囲気で幸村と笑いあった。そしてぎゅう、と力を強めてさらに抱きしめられた。私も同じように幸村を抱きしめ返して、ようやく私たちの“浮気”は終わった。






10000hit そら様








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