10000 | ナノ









やっぱり男って言うものは、可愛らしい女の子が好きなものなんだろうか。可愛らしさなんて持ち合わせていない私には到底分かり得ない事を悠々とやってのける可愛い子、が良いのだろうか。


「…どう思う?」
「まぁ確かに苗字は勇ましいと思うぜぃ。なんか、守ってあげたいって言うより、一緒に戦ってくれそうな」


グサグサッと一度に二つも心に棘を刺された。素直なのはブンちゃんの良いところだもんね。分かってる。でも、なんか、キツいな。


「…そ、だよね。やっぱり。私より幸村のが女らしいかも」
「彼氏彼女逆転みたいな」
「そうだね」


幸村みたいに綺麗な顔してないし。しかも女子にしては高い身長。部活頑張り過ぎて筋肉があの子…男テニマネの子よりはるかに付いてて、髪だって短いし、あんまり器用じゃないし。あれ、私女子…?自爆とはこのことだわ。
因みに今は部活終わりで、マネージャーと話をしている幸村をプリガムアデュージャコレッドと待ってるんだけど。あまりにも幸村がマネージャーと楽しそうに話してるからさぁ…。会話が聞こえなくてもわかるぐらい。私だって嫉妬するって、みんな分かってないよ。


「でも名前先輩にもイイトコあるっスよ!」
「例えば?」
「うぇ!?あ、頭が良いとか」
「でも私中の中だよ」


赤也が一生懸命励ましてくれようとしているのは理解できる。でも、やっぱり私、女としての魅力無いのかな。最近ずっとこんな事ばっかり考えてたら、涙出そう。下がりゆくテンションと共にマフラーを少し持ち上げて頬ぐらいまで顔を隠した私をみんな励まそうと色々考えてくれてるみたいだった。良い友達もったな。


「苗字さんはとても魅力的ですよ、ねぇ?仁王君」
「…ピヨ」
「仁王はよく分かんないけど、柳生、思いやりありがとう大好き」
「大好きの安売りかよぃ。俺にもくれ!」
「ジャッカルに貰って」


ブーブーと不満たらたらなブンちゃんを見て、みんなで笑った。ちょっと元気でたわー。


「楽しそうだね」
「幸村」
「寒かっただろ?帰ろう」
「うん」


みんなはマネージャーを含め、寄り道して帰るんだって。だから、前を歩く幸村について行きながら手を振った。校門を出て、しばらく歩く内に、何となく気まずさを感じている自分が居る。幸村の機嫌があまり良くないのを肌で感じ取った結果である。


「さっき、柳生に何て言った」
「さっき?」
「もう忘れた?大好きって、言ったの」
「あ…」


そういえば言ったわ。でもそこに幸村がここまで機嫌悪そうにする理由がない。だって私も柳生も互いに恋愛対象としていないのだから。


「名前は俺の彼女だろ」


幸村は、歩きながらも横目で私を見た。その瞳が冷たく感じて、しかも、相手はさっきも言ったように柳生。大好きは恋愛感情なんて無いって分かってる筈なのに。どうして私はこんなに言われてるんだろ。それなら、とさっきまで私の頭の中を埋め尽くしていた嫉妬の念が口からきってでた。


「…幸村だって、マネージャーに期待させるような態度してる」
「期待させる?俺には名前だけだって言ってるだろ」
「そんなの言ったってあの子には関係ないよ」


あの子が幸村を見る目は、私が幸村を見る目と同じ。だから、不安にもなるし、あの子と自分を比べてしまう。お互いに色々と溜まっていたのだろう、口論は収まらなかった。


「名前だってそうだ。他の奴に隙ばっかり見せてる」
「見せてない!」
「それに、前々から思ってたんだ。名前が俺と一線引いてるって。」
「そんなこと…」
「ちゃんと、俺の事好き?」


まさか、そんなこと聞かれるとは思っていなかった。驚きと、虚しさ悲しさが一気にこみ上げてきた。私の気持ち、分かろうとしてくれてない?今まで、付き合ってきた時間が無駄に感じた。


「それは、私の台詞だよ…幸村だって、本当は私より可愛いらしい子が良いって思ってるんじゃないの!?」
「…」


幸村の目が見開かれた。それでも一度蓋を切った私の口は止まることなく動く。


「私は可愛くないし、良いところもないし、好きになって貰えるような所無いから」
「…言いたいことはそれだけ?」


ため息混じりに幸村が口を開いた。ここで泣いたら重い女確定だ…可愛くないし重いって最低。


「俺はちゃんと、名前が好きだよ」
「…ゆきむ」
「名前は馬鹿だね。こんなに俺が大切にして来たのに不安になるなんて」


すっかり立ち止まってしまっていた私を幸村が引き寄せて抱きしめた。こうされると、嫌でも幸村との体格の差を実感して、安心している自分。なんだか脱力。幸村の肩におでこを乗せて背中に手を回した。


「名前は十分可愛い。」
「お世辞はいらないよ」
「お前、今のお世辞に聞こえた?」


幸村はお世辞言わないの知ってる。ケバい女子に暴言(?)を吐いてるの見たことあるから。ふるふると首を横に振って否定すると、優しく頭を撫でてくれた。


「名前は自信もって俺の隣に居ればいいんだよ」
「……うん」


ぽんぽん、と背中を軽く叩いて幸村は離れた。さっきは繋がれていなかった左手をしっかり握って。


「でも、お互い本音が聞けたから良いかな」


さっきの不機嫌な幸村は何処へいったのか、いまではうっすら笑顔だ。


「名前が鈍感だって再確認できたし」
「う…」
「名前はもっと自分を見たら良いよ。どんなに自分が可愛いかってね」


繋いだ手にキスをして、幸村は悪戯っぽく笑った。




10000hit 蘭様





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