Theotokos | ナノ








仁王の腕の中で眠るイブを見ると、生きているのかさえ疑ってしまいたくなる程に綺麗だった。でも、起きていたらきっと余計な事になりかねないはずだから、良かったと言えば良かった。


「マリアまだ寝てんの?」
「さっきまで起きとったよ」


イブを抱いたまま、仁王は真田や蓮二達と同じようにソファーの脇に立ったままだった。役職柄、それが当たり前なのだが。
俺達の中でも、役職は決まっているのだ。柳や真田、ジャッカル、仁王のように主に屋敷の管理をする…言わば執事と、俺に丸井、赤也ような表にでる吸血鬼。生まれこそ同じだが、物心がつく頃には自分で道を決めなければならず、俺達吸血鬼は、吸血欲求の強さで役職を決める事が多い。
みんながみんな生粋の吸血鬼ではない。人間に近い吸血鬼である奴らが執事なのだ。


「仁王、イブを」
「はいはい」


イブを受け取り、膝に乗せた。別に仁王を気遣った訳ではなく、仁王がイブと近すぎてムカついただけ。イブは仁王に慣れすぎで、仁王もイブにだけは優しいのも気に入らない。わざわざ集まった仲間達(と言うにはあまりにも粗末な関係だが)はみんな、イブを見ている。


「まさか、まだ何もしてないのか?」
「まあね。」
「…」
「そんな目で見るなよ。言われなくても分かってる」


睨みを利かせてきた跡部に微笑み返せば、彼はフンッと鼻を鳴らした。跡部が言いたかった事は、俺が何もしていないことに対しての批判。
俺たちの世界は、イブのいた世界とは環境が同じ様で全く違う。だから、人間…特にマリアのようなデリケートな存在は、崩れやすい。体調も、精神も、全てに於いてもろくなる。だから、環境に慣らす意味も兼ねて、吸血又は性行為を連れてきてすぐにするのが暗黙のルールだ。


「イブ、起きて」


何度か揺らし、声を掛けるとうっすらと目を覚ました。意識が完全に覚醒するまで待っていると、ハッとしたように俺から降りようとした。それを捕まえ、向かい合わせに座らせる、勿論抵抗できないように彼女の背中で纏めてある。首にかかる邪魔な髪をよけ、彼女越しに他の奴らに話かけた


「マリアの証明だ」
「?なにする、の」
「大丈夫、痛いのは始めだけだから。」
「なっ、い゛っ!」


つぷりと彼女の白い首筋に牙を立てた。途端に漏れ出すのは極上の血と、吸血鬼を惑わせる、香り。見なくても、他の奴らの目が変わったのは確認出来るほどの香りが充満していた。


「ひっ、ん…やめ、っ!」


ビクビクとイブの体が反応しているのは、快感から。下手な男との性行為よりは気持ちいいらしい。ましてや、その快感に免疫のないイブは尚更刺激が強すぎるのは当たり前だった。


「やっ、ひぅ、っあああ…」
「ん…ごちそうさま」


ペロリと最後に舐めてやったら、それすら快感として体は反応した。俺に全てを任せてぐったりしているイブの手を自由にしてやったが、気づいていないのか動けないのか、息を整えて居るだけ。首筋にあった牙の痕は既にキスマークになっている。


「これがマリア…」


ぼそっと不二が呟いた。みんなが納得した様子で目を光らせている。次は自分が、と思っているんだろう。


「マリアは立海の敷地からは出さない」
「喰いたかったら、此処に来い…っちゅーことか」
「そう。…仁王、マリアを部屋へ」
「御意」


仁王の腕へイブを受け渡した。体の力が抜けてしまっている彼女を渡すのは容易い。仁王だけでなく柳も一緒に部屋から出て行く。大方の理由は予想出来ていたから止めなかった。


「もう?」
「マリアはまだ体力もないし、あれ以上吸えば命に関わる。何か他に質問は?」
「マリアは誰の花嫁になるの?」


ニヤリと嫌な笑みを浮かべ、不二が問いかけた。


「…それは俺達が決める事じゃない。マリアが決める事だ」
「へぇ…じゃあ誰が手に入れても文句は言えない訳だ。」
「脅すのはあかんで不二クン。マリアは女の子やねんから」


そう言っている白石はどうか分からないが、他の奴らは、どうやってマリアを手に入れようかと考えているに違いない。誰が相手だとしても渡さない、マリアは…否、イブは俺の物だ。口には出さないにしても、何となく俺の言いたいことは伝わって居るんだろうか、それ以上誰も何も言わなかった。
こんな男ばかりの部屋に居るより、イブの所に行きたい俺は足早に部屋を後にした。向かう先は昔から用意していたイブの為の部屋。ずっと主を待ちわびていたあの部屋にようやくイブが来たのだ。ノックをすれば顔をのぞかせたのは蓮二。仁王はイブのベッドの脇に膝を付いて手を握っている。なんて羨ましい。


「マリアが仁王を離さないんだ」
「…マリアが?」
「今、マリアが信頼しているのがお前か仁王だけだからな」


蓮二はこう言うが、本当にマリアは俺を信頼しているのだろうか?さっき、廊下で俺はイブを傷つけたのに。ゆっくり仁王に歩み寄ると、イブは目をうっすら開いた。


「気分は?」
「…だる、い、です」
「食事まで時間がある。少し休むといい」


仁王と柳に目配せをして部屋から退出させた。イブの頭を撫でてから自分も出て行こうとしたのに、イブはそれをさせてくれなかった。服の裾を控えめに握っていたのだ。


「どうしたの?」
「…1人にしないで…」
「……はぁ、」


こうして仁王も誘惑したんだろうか、いや、したに違いない。俺は上着を脱いでイブの布団に潜り込んだ。イブ1人には広すぎるベッドだから、俺が入っても広さは問題ない。抱きしめてやる前に、イブは俺の胸に顔をうずめた。信頼、されているのだろうか。小さくなって眠るイブをしっかり抱きしめた。イブが寝たらベッドから出て行こうと思っていたのに、気づけば寝てしまっていた。久しぶりに熟睡出来た気がするのは、イブ効果なんだろう。蓮二に起こされてハッとしたなんて。






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