Theotokos | ナノ








目が覚めたとき、私は泣いていた。隣には精市さんが眠っていて、まだ、夜中だ。そっと起き上がると涙がまた流れ始めた。これは、きっと光の涙だ。彼一人で背負うには重過ぎることで、でも私が支えようとしても歯が立たないのは分かっている。両手で顔を覆って声を押し殺して泣いた。私に何が出来る?こうして泣くことしか出来ない私に。


「イブ…?」
「…ごめっんなさい」
「泣いてるの?」


精市さんは起き上がって私の肩に手をまわした。顔を覗き込んでいるのだろうけど顔を覆っている私には何も見えない。顔を覆っている私の手に精市さんがキスをした。それから私を膝の上に乗せて優しく抱きしめてくれた。その暖かさに安心した反面、光にはこんな風にしてくれる人が居ないんだって思うと苦しかった。


「怖い夢でも見た?」


首を横に振ることしかしない私に、無理やり何かを言わせるわけでもなく、そっと抱きしめたまま頭を撫でていてくれた。顔を覆っていた手を精市さんの背中に回してすがりついた。それからずっと、私が泣きつかれて眠るまで精市さんは何も聞かなかった。
私はもう、精市さんを受け入れると決めていた。ただ不器用で、誰かを真直ぐ愛するすべを忘れてしまった彼を私が暖めてあげたいと思っていた。だから、私は光を選べない。けど、誰かが光を支えていないと、いつか彼がぼろぼろになって壊れてしまいそうで怖いから。







「イブ、昨日さ、アルプとなんかあった?」
「ぇ…」


泣きすぎて腫れてしまっていた目を冷やしている私に、ノアが尋ねた。ノアは全部知っているのだろう。私が光に毎日夢で会っていたことも、なにもかも。


「私…」
「イブには重すぎて当たり前だろ。相手は人間じゃない」
「っ!」


初めてこんな風にノアが私に言った。今までどこか気が抜けたように喋っていたはずなのに、私を全力で否定するその声色も表情も初めてみるものだった。


「自分が、ただの女の子だって忘れたわけ?」
「ちが「違わないだろ。イブはこの屋敷っていう囲いの中じゃないとここでは生きられない弱い生き物なんだから」


それ以上私は何も言い返せなかった。だってノアが言っていることは全部あたっていたから。


「でも…、そんな風にいわないで…」
「…」
「…」


お互いに黙ったままで、先に逃げたのは私だった。静かにノアから離れた。言葉で表せないような気持ちがあって、ひとりで考えたかったのもある。扉を閉める直前、ノアが苦い顔をしたのが見えた。私の為に、ノアがあんな事言ったって分かってる。


分かってる。









今日はまだイブの部屋に朝しか行っていないと思って、紅茶の用意をしてから部屋を訪ねた。しかしそこは想像以上に辛気臭かった。まぁ、それを引き起こしているのは部屋の主ではなく、そのペットなわけだが。


「におー」
「何じゃ」
「俺、…俺ぇぇぇっ」
「ぅお!!」


不意を付かれたのもあるが、勢いをつけて自分と同等の男に飛びつかれて踏ん張れるほど俺の体格はよくない。


「お前……馬鹿か!?いきなり飛びつくな!」
「うっ、うっ俺っ、」
「…何なんじゃ…いきなり…俺の顔して泣くな、キモイ」


いつもはぴょこぴょことせわしなく元気に動いている耳は力なく垂れ下がり、ユラユラしていた尻尾はダランとのびている。


「イブは?」
「俺、がっ、イブ…イブ…」
「あああっ、泣くな!分からんじゃろ!」


ぐずぐずと泣き続けるノアの暗号のような言葉をつなぎ合わせることで漸く理解ができた頃にはもう疲れていた。


「俺イブに嫌われたら生きてけねぇぇっ」
「嫌うわけないじゃろ。イブは分かっとるよ」
「うううう…におーっ!」
「うるさい」


とりあえずノアを上から退かさないとイブを探しにも行けない。ほぼ蹴り上げるような形で、のしかかっていたノアをぶっ飛ばした。




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