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ノアが人型になったことで、イブの日常が以前に比べると幾分か色付いたように見えた。弱々しくはあるが笑顔でいる時間が増え、ストレスから来ていたであろう体調不良の波も今では引き気味。誰に似たのか知らないがかなりやんちゃなノアと庭の芝生の上でじゃれあって髪をボサボサにしているイブも悪くはない。体だけが大きくなっていくだけで無知なノアに、様々な話をしてやる姿はさながら姉と弟だ。
あと、食の細かったイブが、前に比べるとよく食べるようになった。それもやはりノアが居て、食卓が賑やかになったからだろう。


「におー」


茶菓子を用意してやっている俺に向かって少し森に近づいた離れた場所から手を振るイブとノアに手を振り替えしながら微笑ましく思っていた、のもつかの間で、
ノアは予想通り、一週間足らずで俺達と肩を並べるほどの体格になり、幾分か落ち着いたように見えた。外見こそ俺にそっくりだが、俺とは全くちがって明るく笑顔が目立つ男になった。


「におー、イブは?」
「…幸村んとこ。しばらく近づくなよ」
「またかよぉ…マジあいつあり得ねーわ」


少々性格には難があるが。


「俺のイブがぁぁ〜」
「猫被り。誰に似たんじゃ」
「だって俺猫だし。」


ソファーに体を預け、髪を弄りながらわざとらしくにゃーと鳴いているノアを無視してやった。相手をするのが疲れる。嫌いでは無いけれど。


「そう言えばさ、アルプいるじゃん」
「…四天宝寺の財前か?」
「そ。アイツ、最近夢に介入してるみたいだぜ」


誰の、は聞かなくても分かった。余程の変わり者で無い限り同性の夢には介入しない。


「お前夢に入れるんじゃろ。追い払っとけ」
「無理。」


財前はイブに夢の中で会って、何でもないような話しをして帰る。だからイブの財前への信用は大きく、だからこそ無闇に追い払う訳にはいかない。それがノアの言い分だった。


「ま、今の所イブに悪影響無いし、いんじゃね?」
「…」
「何かあったら言うし。」


言いながら一瞬ノアの目が変わったのを見逃さなかった。やはり悪魔の一種であるだけあって、根は狂暴なようだ。
ノアはその話がしたかっただけですぐに部屋から出て行ってしまったが、俺にしてみればノアから聞いた話がぐるぐると頭の中で巡って仕方がなかった。身体の弱いイブなら簡単にアルプに喰い尽くされてしまう。何かがあったら────


「仁王!」


打開策を考えていたのを突然断ち切ったのは、イブだった。一緒に居た幸村はイブの後ろで愛しいものを見るように目を細めていた。


「見て!精市さんが手伝ってくれたの」


イブの手には王冠を意識したパールビーズをつかった器に青や白の花を飾ったフラワーアレンジメントの一種。


「ブリザーブドフラワーって言うの」
「へぇ」
「部屋に飾ろっ」


ノアがもたらしたいい影響はイブを明るくしただけではなく、幸村との関係までも円満にしていた。前まで抱いていた幸村への恐怖心が段々と薄れているのが見て取れる。


「イブは昔から花が好きだったしね」
「…昔、から?」


言った後、幸村が一瞬しまったと言う顔をした。今日の幸村はさぞかし機嫌が良かったのだろう。昔の話をするだなんて。俺達が、血や立場に縛られていなかった頃の話をする、なんて。


「え…あの、昔って…」
「今は、まだ知らなくていい」


うろたえたイブを止めたのは俺で、タイミングよく現れたノアにイブを任せて部屋から出した。
一方の幸村は頭を抱えてしゃがみこんだ。


「俺バカだ。あー、もー」


ソファーに移動してクッションに顔をうずめて唸る幸村。


「久々に見た」
「は?」
「今みたいなお前」


言うと同時にビックリした顔でクッションから顔を上げた。まさか俺がこんな事を言うとは思ってもみなかったようだ。


「強がるのはやめんか。今のほうが、似合っとる」
「ハルがそんな事いうなんてね。意外」
「そうか?」


ソファーに深く座り直した幸村は自嘲的な笑みを浮かべていた。昔と同じ呼び方をした時点で今の幸村は本当の幸村だ。


「…やめられたら、楽なのにな」


この幸村を知るのは俺とイブだけでいい。




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