04完成された完全なる完璧


「色、色」
「……」
「聞こえているだろう。何故無視するのだ色」
「無視されているとわかっているのに話しかけるチャレンジ精神は別の場所で発揮してください」
「おれを無視する人間などいない」
「私、いつ人間やめたんですか」
「やめさせてやろうか」
「まだ太陽と友達でいたいです」

 先日名前を教えたせいでうざさ指数が60あがったDIOは私にやたらと絡んでくる。鬱陶しいこのうえない。きっと女子に絡まれていた承太郎もこんな気持ちだったのだろう。
 私の名前を呼ぶたびにニヤニヤされるのは気分が良くない。そもそもこの館に居る事によって下がってる私のテンションが更に下がる。私の今のテンションは貧民街テンション……いや、貧民街とかないけど。多分。私は行った事がない。
 本を読んでDIOを無視しようと思った私の作戦は見事に失敗してしまった。今日もまたDIOの相手をしなければならない。
 ……相手にしないという選択肢もあるけれど、そうすると今以上に面倒な事になる。服に手を突っ込まれたりベッドに押し倒されたり無駄に名前呼ばれたり。ロクな事がない。

「で、何の用ですか」
「用がなければ話しかけてはいけないのか」
「……今、本気で殴りたいと思いました殴っていいですか」
「おい、言葉より先に拳が出ているぞ」
「思いついたらすぐ行動に移すタイプなので」

 そして軽々しく拳を受け止めるDIOに腹が立つ。まあ本気で当たるとは思ってないけれど。
 それにしても、このひとは一体何がしたいのだろうか。まさか本当に話し相手が欲しかっただけなのだろうか。人質兼話し相手……友達いないのかな。

「今、失礼な事を考えただろう」
「いえ、別に」
「嘘をつくな」

 ぐわしっと顎を掴まれて無理やり目線を合わせられる。爪が微妙に食いこんで痛い。
 仕方がないから目を合わせていたら、DIOも私から目を離さない。

「…………」
「…………………」
「………………………」
「………………………………」
「…………何か言え」
「なにか」
「貴様、おれをからかっているのか」
「はい」

 DIOはしかめっ面で私から手を話した。あからさまに機嫌が悪くなった。わかりやすいひとだ。
 機嫌が悪いDIOは部屋から出ていくか、無言で周囲に嫌な空気を拡散させるかのどちらかだ。どちらでも私に大した被害はないけれど、できれば部屋から出て行ってほしい。
 本の続き、読みたいし。

「貴様はこの世に完璧な人間が居ると思うか?」
「……さあ、いないんじゃないですか」

 突然、話の繋がりが消えた。DIOはいつも思いつくままに行動しているから、今回も思いつくままに言ったのだろう。
 完璧な人間、か。何を指して言っているのだろう。

「そもそも完璧とは何だ」
「欠点がひとつもない完成されたものじゃないんですか」
「ああそうだ。だが、欠点がない人間など居るのか?」
「何を欠点とするかによるんじゃないですか」
「ほう」
「結局は完璧なものというのは個人の価値観でしょう」
「価値観、か」

 だからこそ私はこの世に完璧な物は存在しないと思っている。
 私にとっての完璧は『壊れず、失われないもの』この世に在る限りは、何処にも存在しないもの。私にとって完璧な人間はこの世に存在しない。
 DIOにとっての完璧な人間は何か知らないけれど、何となく思い浮かぶ。

「ジョースター家のひとたちは完璧に近いと、そう思っているんですか」
「なに?」
「100年の時を経てもなお自分を倒しに来るジョースター家の血筋が恐ろしいんですか」
「……いいや、おれが言う完璧な人間というのは奴らではない」
「では、誰なんですか」
「貴様だ、色」
「……、…………そう、ですか」

 不意打ちに言われて思考が一瞬停止した。
 私のどこに完璧を見出したのだろうか。むしろ程遠いと思っているのだけど。

「貴様は何も恐れていない。このDIOを一度も恐怖の対象として見ていない」
「それだけですか」
「それだけ、だと? 貴様は何もわかっていない!」

 何をわかれと言うのだろうか。自尊心の高いやつが言うことはわからないことだらけだ。
 と、冗談は置いといて。さて、何がわかっていないのだろうか。DIOを恐怖の対象として見ていない事? だって、それは……ああ、そうか。
 いつ殺されてもおかしくない状況に居るのにも関わらず、一度も怯えた様子を見せない事が、たまらなく違和感を発しているのか。
 私は嘘をつくのが下手だから、演技も下手だと自負している。だから下手な嘘も演技も抜きに接していたのだけど、それが逆効果だったのだろう。DIOは私を『恐怖を感じない完璧な人間』として見てしまっている。けれど、違う。

 私は決して完璧な人間ではない。

「貴様のスタンドがそうさせているのか? 貴様は一体どんなスタンドを持っている?」
「いい線いっていますが、見当違いの方向までいっていますね」
「スタンドではないのか」
「いいえ、スタンドですよ。ただし、DIOが今想像しているようなスタンドではないと思います。実際、戦いには何の役にも立ちませんから」
「ならば、何故だ。何故貴様は怯えない? 恐怖しない?」
「…………それは、壮絶なネタバレになるのでノーコメントで」

 DIOは納得ができていない様子だった。私もこれで納得してもらえるとは思っていない。
 ただ、ひとつだけ言えるのは、DIOは私を殺さない。これだけは確信を持って言える。DIOはきっとこの確信が怖いのだろう。
 私は私だけが知る事実を誰にも言わない。何故ならばこれは壮絶なネタバレであり、希望であり、絶望であるからだ。

 さいごに誰が笑うかは、あらかじめ決められているのだ。未来という未知の世界に。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -