09先の先へ



「この先にDIOは居るのか?」
「はい、窓から飛び降り自殺していなければ居るはずです」
「……相変わらず面白くねぇギャグだな」
「それ、褒め言葉ですよ」

 別に笑わせる為に言っているわけでもないから。逆にポルナレフの言うギャグで私が笑った事は一度もない。私は素直なのだ。
 ポルナレフはふらふらと覚束ない足取りで階段を上りはじめる。私もその後に続こうと思ったけれど、ふと思い出す。

「承太郎たちは何処に行ったんですか?」
「あいつらは下に引きずり込まれた……多分地下じゃないか?」
「承太郎たちを探してきます」
「ひとりでか? まだ城の中には敵がいるかもしれねぇんだ、お前ひとりじゃ危ない」
「その敵だらけの城に宿泊していた私は不死身ですかね」
「……このまま城から出ろ。そしたら少しは安全だろ」
「そうですね。と言って私が素直に出て行くと思いますか」
「お前なぁ……!! ……、いや。そうだな、ジョースターさんたちを探してきてくれ」
「ええ、そうするつもりです」

 急に神妙な顔つきになるポルナレフ。やはり仲間が居てくれた方が心強いのだろうか。それとも、少しでも私をDIOから離そうとしているのか。
 直前まで同じベッドの上に居た、なんて言ったら鳥肌が立つような誤解をされそうだ。言いたくはないけれど、何処かの吸血鬼は嬉々として言ってしまいそうだ。DIOの口の中に百合の花を刺してこればよかった。少しは静かになったかもしれない。

 さて、承太郎たちを探しに行こう。と後ろを振り返る。改めて、酷い光景だ。そこらじゅうに穴は開き、床も抉れている。下手したら城が崩れそうだ。
 背後にポルナレフの視線を感じながら歩く。この辺りでアヴドゥルさんかイギーが死んだのだろうか。
 外壁が崩れていて太陽が館の中を照らしている。足元にさらさらとした砂の感触があった。イギーの砂のスタンドが生み出した砂だと気付いた。

「そこから先には行くんじゃねえ」
「……そこでイギーが殺されたんですね」
「ッ……、あぁ」
「そうですか」

 ポルナレフの忠告を無視してイギーの遺体を探す。後ろからポルナレフが何か喚いている気がするけど、気にしない。
 イギーの身体は小さいから見つけにくい……と、周りを見渡していると妙に赤黒いものがある事に気が付いた。
 近づいてみるとやはりそれはイギーの遺体だった。一応原型は留めているが、酷い損傷を受けている。

「お、おい、色……」
「なるほど。確かに酷い状態ですね」

 確か、私のスタンドで見たイギーの『死の光景』はヴァニラに散々蹴り倒された後、瀕死の状態でポルナレフをかばって死んでいた。イギーは私に触れている時間が長かったから『死の光景』がよく見えた。彼は私の膝の上で寝るのが好きだったから。
 ……こうしてみると、眠っているようにも見えなくはない。少なくとも苦しんでいる表情ではない、と思う。

「…………、……」

 あぁ、やっぱり駄目だ。何も言葉が出てこない。仲間の遺体が目の前にあるというのに、涙ひとつ出てこない。今までの思い出を振り返っても、心は何も反応しない。
 しゃがみ込み、イギーの遺体を見つめてもやはり何も、ない。周りにあるスタンドの砂に触れると、少し冷たかった。

 私はスタンドを使い、イギーの周りに花を置く。あっというまにイギーの周りは花で埋め尽くされた。
何も感じる事はできないけれど、彼が死んだという事実は認めている。理解している。だから今私ができる最善の手向けは、きっとこれでいいのだろう。

 あぁ、そうだ。ひとつだけ、言うべき事を思い出した。とても簡単で、日常的にも使える言葉。きっと今言うのが一番いいだろう。

「さよなら、イギー」

 そして私は背を向けた。ポルナレフは何か言いたげな顔をしていたが、彼も背を向けて階段を上りはじめる。
 私は承太郎達を探しに、ポルナレフはDIOを倒しに。もう立ち止まる事はない。



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