05予知と予見とネッシー


 水底に沈んでいるような感覚に、ああまたか、と。ぼんやり思う。
 誰かの死を見た後の睡眠は大体このような感覚で始まって、終わる。今日は誰だったか……確か、DIOの部下のヴァニラ・アイスという男だった。
 ヴァニラは太陽に殺される。傍に居たポルナレフは満身創痍だったけれど、恐らく生き残るのだろう。

 ……何てことのない、これが私のスタンドの能力だった。
 死を見るスタンド。正確に言えば、肌が触れた相手が一年以内に死ぬ場合、その死に際を見るスタンド。私の意志関係なく相手の死が勝手に私の脳内で上映される。
 私はスタンドによってアヴドゥルさんが何処で死ぬのかを知っていたし、もちろん犬であるイギーの死も例外なく知っていた。
 承太郎やポルナレフ、ジョセフさんの死が見えなかったのは、死期が一年以上先であり、なおかつ直接体が触れる機会が少なかったからだろう。死期が一年以上先の人でも、長期間触れていると『見えて』しまう。
 長期間触れた例として、私の両親がどのように死ぬかを知っている。いつ死ぬかはわからないが、いつか私が知っている光景で死ぬのだろう。

 それを回避することは、できない。
 ただ見ているしかできないのだ。

 そして、これはDIOも例外ではない。



「……目覚めドッキリですか」
「ふむ、反応が悪くなったな」
「ええそれはもう毎日目覚めたら同じ顔が目の前にありますから。流石に飽きますよ。別の顔に取り変えたらどうですか」
「身体なら別のものに取り換えられるが」
「冗談が真実になってしまう事に驚嘆です」

相変わらず最悪な目覚めだった。おまけに朝日は拝めない。DIOの活動時間が夜なので、それに付き合わされて私の活動時間も見事に吸血鬼のそれと同じになってしまったのだ。
その内本当に私も吸血鬼にされてしまうかもしれない。なにせ冗談を真実にしてしまうDIOのことだから。

「不健康な生活ばかりで身体が不調を訴えてます」
「そうは見えぬが」
「いいえ、不調なので寝ます」
「待て」
「布団引っ張らないでください」

 ぐい、と無理やり布団を引っ張って私をベッドから引きずり出そうとしてくるDIO。寒い。
 しぶしぶ身体を起こすとDIOに正面から抱きつかれた。暑苦しい。
 未だにDIOの行動原理がわからない。

「何ですか」
「寒いのだろう」
「わかっているのなら布団返してください」
「このDIOが暖めてやると言っているのだ」
「誰も頼んでないですよ」

 いやマジで。頼んでないから早くどいてほしい。
 という私の願いは当然聞き入れてもらえるはずもなく、DIOはべたべたとくっついてくる。
 ……そして、まるでフラッシュバックのようにDIOの死に際が私の頭の中で再生される。DIOは私が拒絶しても触れてくるので、何度も死に際が再生されその死に際を覚えてしまった。表情も、声も、その時傍に居る承太郎の顔も。死に際にDIOが私に何かを言っているのも見えたが、何を言っているのかは聞き取れない。未来へのお楽しみだろうかと不謹慎にも思ってしまう。
 そう思えてしまう程度には、間接的にではあるが人の死を見すぎた。スタンドを介して相手と私の身体が触れた瞬間に。否応なしに。
 10歳の頃からそれを繰り返していたので慣れないはずがない。慣れなければ心が食い潰される。だから私は他人と距離を取りできるだけ触れないようとしているというのに。
 DIOは私に触れすぎた。だから、私はDIOを恐れない。未来に私は居る。承太郎も居る。DIOは殺される。確定された未来だ。

「なにを考えている?」
「将来の夢についてです。学校の宿題で出されましたので」
「おれの僕(しもべ)になればそんな煩わしい事を考えなくてもよくなるぞ」
「先生が泣きますね」

 両親も真っ青だ。そういえば両親はいつ死ぬのだろう。死因はわかっているけれど、いつどこでというのは知らないから、もしかしたらこの旅の間に死んでいる可能性もある。
 そしたら、これから生きるのが少しだけ大変になるかな。なんて他人事に思えてしまう程度の事で。
 ちなみに担任はこの一年以内には死なない。安堵も何も抱かない結果だ。

「私の将来の夢はネッシーに会う事です」
「ねっしー? なんだそれは」
「湖にいる伝説の恐竜です。首が長い事で有名ですよ」
「恐竜……化石か」
「最近は生きた化石もいるんですよ」
「なに、生きた化石だと? 化石が泳ぐわけないだろう」
「……世間知らずも行き過ぎると天然ですね」
「何を言っている」

 この吸血鬼、意外と天然だ。人間をやめたのもついうっかりやめちゃったとか言いそう。それは流石にないか。
 それにしても咄嗟にネッシーという言葉が出てきた自分に、少しだけ驚いた。ネッシーに会いたいと言っていたのは私がまだ本当に子供の頃だ。スタンドの能力を手に入れる前の……純粋だった、あの頃。
 今は死に対しては随分と不純になっている気がする。かといって純粋に死を想うというのがどういう事かはわからないけれど。

「そんなにネッシーの事が気になるなら部下に聞いてみればいいじゃないですか」
「む……別に気になってなどいない」
「そうですか」

 私も別に気になっていないですよ。
 誰が何処で死のうが、私には関係のない事ですから。

「そろそろ、承太郎たちが見つける頃じゃないですか」
「……、」
「ネッシーよりも身近で親しみのある吸血鬼を」

 私には関係のない事だけれど。


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