04




少し重めの朝食を済ませ、今は片倉が入れたお茶を飲み食休みをしているところ。相変わらず真田と前田はテレビに釘付けだ。

この後は、彼らの日用品やお布団なんかを買いに行こうかと思っている。メンバーはどうしようかな、なんて考えていると突然、猿飛が苦無を構え殺気を放った。

どうやら其れは、ここにいた全員にも該当した。皆が皆、どこかへ意識を張り巡らせているような、そんな感じだ。武器を持っていない真田と伊達と前田、そして私を守るように、猿飛と片倉が一歩前で構えている。


「ねえちょっと、私の家壊したら怒るからね」

「家と命、どちらが大切かか、よく考えておけ」


家の心配をしていたら、片倉に怒られた。私に飛ばされるのは、殺気ではなく怒気のような物だけれど、威圧感は凄まじい物だった。


「なまえちゃん、この時代に忍はいないんだよね?」

「いたら今頃テレビにでも出てるんじゃないかな」

「そう、それじゃこの気配は俺様達の世界から来ちゃったのかな」


どうやらこの家の中に、忍の気配を感じるらしい。うつくしきつるぎ、それとも風の悪魔、どちらにせよおいしい。まあ欲を言えば、女の子がいいかな、なんて。


「忍ー、恐くないから出ておいでー」

「おいなまえ!なにしてやがる!」


後ろから伊達の叫び声が聞こえたが、聞こえないフリをした。猿飛と片倉を後ろに追いやって、両手を広げる。所謂"おいで"のポーズというやつだ。

すると事もあろうか、黒い影が私の元へ降ってきた。そのままぽすっと受け止めてみる。腕の中にいたのは赤い髪の毛の男、風魔小太郎その人だった。


「ちょ、そいつ伝説の・・・!!なまえちゃん!今すぐそいつから離れて!!」

「猿飛この野郎、ちょっと黙れ」


軽めに抱きしめてやると、仄かに鉄の香りがした。暗殺帰りだったのかな、なんて考えてたら風魔に抱き返された。


「あんた、風魔小太郎だね?」


コクリと頷いた後、私をゆっくりと離した。兜で見えない筈なのに、何となく目線が交わっている気がした。そして、


「風魔殿!?」

「Ha! なまえ、やるじゃねえか」

「こりゃたまげたねえ」


目の前には跪く風魔。私の右手の甲に口付けをした彼は、現代風に言うと"ドヤ顔"ってやつだろうか。





新たに風魔を迎え入れた。(そして忠誠を誓われた、どういうことだ。)

もう一度買い物のメンバーを決め直してから、私は買い物へ向かう。結局、真田と片倉を連れて行くことにして、他の面々には各部屋と庭の掃除を頼んでおいた。なんせ放置住宅だったからね、汚いのなんのって。
猿飛には全員のお守りを任せ、念のために私の二台持っている携帯の内の一つを預けた。今流行りの"ワルコム"である。PHSなら比較的操作も簡単だろうし、私自身あまり使う機会が少ないという理由だ。


「それじゃ猿飛、あとはお願いね。風魔のこと虐めちゃダメだよ?」

「今や伝説もなまえちゃんの忍だし、虐める訳ないでしょ」

「なまえちゃん、気をつけて!」

「小十郎、くれぐれもなまえに粗相のねえようにな」


四人のお見送りを背に、私はアクセルを踏んだ。





15分程走らせれば、大きめのショッピングモール"ジョスコ"に到着した。予め二人には、騒いだら夕飯抜き、と脅しておいたので多分困りはしないだろう。

家具専門店の"ナトリ"で寝具とカーテンを、衣料品店の"ユニコロ"で服と下着を、百円均一の"ダイショー"で日用雑貨を、家電店の"ラージカメラ"でPHSを一台購入した。
ここまで買った物は全て配送サービスで送ってもらうことにして、最後に地下一階の食料品売り場に来た。

ここに来るまで、真田も片倉も余り騒がないでくれたのは、嬉しい誤算だった。どうせ真田辺りが騒ぎまくるんだろうな、と思っていたから。


「ここは色んな野菜や果物が置いてあるコーナー。さあ片倉、あんたの出番だよ」


そう言って、右手に持っていた買い物カゴを片倉に手渡した。片倉を連れてきた理由はこれだった。野菜の目利きは彼にしか任せられない!
左手は、真田と逸れないように手を繋いでいる。(最初は顔を真っ赤にしてワタワタしていたが、今ではもうすっかり慣れた。)


「す、すげえな。見たことねえ野菜も沢山ある」


これはなんだ、どう調理するんだ、こっちの方が新鮮だ、これはこっちに合いそうだ。片倉がこんなにもイキイキするとは、と真田と笑った。

その後は鮮魚コーナーと精肉コーナーに案内した。ここでは、鶏モモ肉と豚ひき肉をカゴに入れた。
次にはお菓子コーナーで、騒がなかった真田へのご褒美(勿論お団子)と、明日からの皆のおやつを選んだ。

その後も、必要な調味料や乾麺、缶詰などをカゴに入れていった。途中、いざという時の即席麺や冷凍食品も選ぶの忘れない(どうやら、昨晩の味が忘れられないらしい)。

最後にパンコーナーで食パンとフランスパンを何個かカゴに放り込み(ちなみに三個めのカゴである)、酒コーナーへ足を進めた。


「現代には色んな種類のお酒があるよ。南蛮のお酒もあるし、勿論日本酒だってある」


好きなのを選びな、と言えば真田が駆けて言った。片倉はカゴの乗ったカートを二つも押しているので、酒を見るどころではないらしい。

暫く酒を選んだあとは、三人でレジに並んだ。お金のやり取りやレジの機械などに慣れてもらう為である。そのうちお使いなんかに行かせられたら、と企んでいるのは皆には内緒の方向で。


「はあ、疲れたー」

「なまえ殿、早く帰りましょうぞ!」


車に戻り運転席にどかっと座って一息ついていると、真田に急かされた。ちょっとはゆっくりさせてくれないのか、まあいいや、と車を発進させた。
途中、片倉に何度も謝られたが(衣食住を与えてくれた上に沢山買い物させてしまってすまねえ、らしい)、さして気にしていないので殆ど無視した。
第一、宝くじでン億も当たったところで、一人じゃ使いきれないっての。お金も、イケメンの為に使われたなら本望だろうよ。

帰りはちょっと寄り道したので30分くらいかかったが家に着いたのはまだ夕方で、もうちょっとゆっくりしてきても良かったかなあなんて思った。


「ただいまー、ってうわ。すっかり綺麗になったね」

「なまえちゃん、おかえり!」

「おお前田、ちゃんとやってた?」


お留守番組みもしっかり仕事を熟してくれたようで、ホッとした。

食料品をしまってから皆でお茶をしていると、インターホンが響く。シロネコヤマトだ、と呟くと、俺様が行く、と猿飛が玄関に向かった。昨日は敵襲だ、なんて騒いでいた彼らも今じゃすっかり慣れたようだ。

届いた布団を適当に和室に置いて、服と日用雑貨をそれぞれに割り当てた。


「買うときに思ってたんだが、やっぱり多すぎねえか?」

「某も、疑問に思っておりました」


確かに六人分じゃないねーあはは、と笑っていると、猿飛と片倉にキッと睨まれた。


「いやなに、女の勘が働いただけよ。まだ増えるような気がしてね」

「ちょっとなまえちゃん、それどういう・・・!」


猿飛の言葉が最後まで紡がれる事はなかった。突然空気がピリピリとしだしたのだ。
朝に風魔が来た時と同じように、猿飛と片倉が一歩前で構えている。朝と違う所といえば、前の二人に風魔が追加されていることぐらいだ。


「なまえ殿、二階から殺気を感じまする」

「Hum... それも二つだな」

「なまえちゃん、風魔から離れちゃだめだよ」


二つねえ・・・。もう思い浮かぶのは、瀬戸内のあいつらしかいなかった。猿飛にそう告げると、俺様ちょっと見てくる!、と天井に消えて行った。


「くれぐれも家壊さないようにねー、って聞こえてないか」





これで八人か、と私は頭を抱えた。




04増殖
(鬼よ、此処は何処ぞ)
(俺が知る訳ねえだろ!)
((あーらら、なまえちゃんの言った通りになっちゃった))



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風魔と瀬戸内!

カナメ




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