01






「なつかし・・・」


たった今、父の実家に到着した私は、車のキーを片手に目の前に聳えるほんの少し寂れた家を見上げる。
ここに来るのは父が亡くなって以来で、それ以降は娘の私が相続したのである。

ここは"うみなし県"と皮肉られている、とある県の中にある。庭付き二階建て、和室には縁側だってある。玄関の前には車二台分の駐車場があって、さらにその前にはリモコンオート式の門。我ながら、かなり立派な家だ。
そんな家を相続したはいいものの、都会生まれで都会育ちの私は中々住む気にならなかった。しかし、アルバイトに明け暮れる日々にも飽きたのでたまには良いか、とこちらに越してきたのである。
というのが、表向きな理由。実を言うと、宝くじで二等が当たったので、アルバイトをする必要がなくなったのだ。

余談はさて置き、車に詰めた少ない荷物を玄関先に置く。引っ越し屋さんは夕方頃に来るとか。今はまだ朝の10時過ぎだから、二階の一番奥の部屋  −ここがこれから私の寝室になるー  で軽く睡眠をとることにした。



何時間寝ただろうか?はたまた何十分?
ゆっくりと意識を取り戻していき、真っ先に気付いたのは身体の不自由だった。如何いうわけか、身体を起こそうにもビクともしないどころか、目も開かない。
少し考えて行きついた答えは、強盗。誰もいないと思って忍び込んだ家だが、寝ている私を発見して拘束した、そう考える他なかった。そして次に気づいたのは、目の前に感じる人の気配。瞬間、身体中の毛穴が開いたような、なんとも言えない感覚をおぼえた。それと同時に身体が震え始めた。
このまま殺されるのだろうか、宝くじを当てたことが誰かにバレたのだろうか、そんなの損ではないか、。色んな感覚が頭のなかをグルグルと回っている。これを人は混乱と呼ぶのだろう。


「うっ・・・、く、」


何時の間にか泣いていた。もう分からなくなっていた。自分の泣き声を聞いてハッとしたのと、目の前に感じる気配が此方に気付いたのはほとんど同時だった。


「あーらら、起きたの。んじゃ質問するから手っ取り早く答えてね」

「女、此処は何処だ」

「ああちょっと右目の旦那ってば、それ俺様の台詞!」


聞こえたのは、子安ボイスだった。おかしい。更におかしいのは、その子安ボイスが発した言葉である。
みぎめのだんな?おれさま?
あれあれ、これは某戦国アクションゲームの某忍者ではないのか、そんな馬鹿な。右目の旦那って、じゃあその某忍者の隣には、某葱侍がいるわけ?ないないないない、ありえない。ここは三次元だよ。イェス三次元、ノー二次元、オーケーオーケー。落ち着け自分。

落ち着きを取り戻した私は(こんな時に言うのもなんだが、これでも冷静さに定評があるのだ。)、目の前にいるであろう、猿飛佐助モドキと片倉小十郎モドキの問いに答えた。


「This is my room. 」(ここは私の部屋)


英語でね。
目の前の気配達は、どうも驚いたらしい。ふふふイタズラ成功である。強盗ではないと分かり、更には二次元キャラクターであると分かったからには、もう私の独壇場である。夢であろうがなかろうが、どうでもいい。この現状を楽しむのだ。


「アンタ、南蛮語が分かるのか」


えっ、この声は伊達政宗?なに、この部屋には何人いるの?猿飛佐助と片倉小十郎だけじゃないの?


「Hey girl , what your name? 」(アンタ、名は?)

「When you ask someone about a name , please let me know from you own name. 」(人に尋ねる時は先に自分から、でしょ)

「Ha! 言ってくれるじゃねえか、おもしれぇ。俺は奥州筆頭伊達政宗だ。Girl、アンタの番だぜ」

「Girlとは失礼だね。私はみょうじなまえ、ここの家主」

「政宗様、ここから先はこの小十郎めが、」


お互いの自己紹介を済ますと、片倉小十郎がそれを制す。途中で聞こえた感嘆の声は、恐らく真田幸村と前田慶次だ(私の声優マニア度をなめないで頂きたい)。と言う事は、この部屋には少なくとも五人いる訳だが、如何せんむさ苦しくはないだろうか。


「私に敵意なんてないの、忍なら分かるでしょ?早くこれ解いて」

「忍だってなんで分かったの?まあいいや、確かに敵意や殺意は皆無だし」


そういって猿飛佐助は、今まで私の身体と視覚の不自由を奪っていた麻縄と布切れを解いた。
目を慣らし辺りを見回せば、やはり想像した通りの面々がいた。みんな思ったより大きいんだね。


「それで、アンタ如何いう了見で旦那達をここへ連れ込んだ訳?」

「人聞きが悪いね。勝手に上がり込んだのはあんた等でしょ」


さっきから、猿飛佐助と片倉小十郎の視線が痛いが、臆する事はない。なんせ相手は二次元ですから。


「じゃあ、とっとと自己紹介して。もうすぐ"シロネコヤマト"が来ちゃうから」

「は、はい!なまえ殿!そそ某、真田源次郎幸村で御座ります!」

「ハハハ幸村、緊張しすぎじゃない?あ、俺は前田慶次ね」


何故かガチガチに固まった真田幸村と、それを笑う前田慶次。オーケー、これであと二人ね。早くしろ、と目線で急かせば、残りの二人も渋々といった感じで自己紹介をしてくれた。


「・・・片倉小十郎だ」

「人呼んで猿飛佐助、旦那に触れたら消すよ」


猿飛佐助の胡散臭い笑顔、ちょっと気持ち悪いな。あとで注意しておこう。
意気込んでいると、インターホンが響いた。途端"敵襲かっ!"と騒ぎ出した五人は放っておいて、いそいそと玄関へ向かった。猿飛佐助だけついて来たので、"決して姿は見せるな"と注意するのを忘れない。


「みょうじさん、お荷物お持ちしましたー」

「ご苦労様です。この辺に適当にお願いします。あ、ベッドと小さいテレビは隣の部屋で」


本当は部屋まで運んでもらいたいところだが、部屋では"戦国大名"が騒いでいるので諦めた。
猿飛佐助の姿が見当たらないが、何処か  ー恐らく天井裏だろうー  で見張っているのだろう。


「では、失礼しましたー」

「ありがとうございました」


脱帽し、お辞儀をする作業員たちに労いの言葉を掛けるのも忘れない。玄関の鍵を閉める頃には、外からエンジンをかける音が聞こえた。


「忍、もういいよ」

「いやー俺様、息が詰まりそうだった。ていうか忍ってなんか嫌」


猿飛佐助の話しはこうだった。天井裏が狭い、汚い、臭い、だった。そりゃ現代に忍なんていませんから、なんて解説はこの後しよう。




折角、脱フリーターしたってのに、苦労は耐えないのね。



01出会い
(敵襲で御座るぁぁあ!!)
(ど、どうしよう政宗!)
(はあ、少し黙ってくれよ)
(ま、まま政宗様のお命は、こここ小十郎めがお守り致しますぅぅうう!!)
(Ah、お前もか小十郎)



−−−
見切り発車、オーライ。
冷静ヒロイン攻め(!?)でギャグやっちまいます。

うみなし県について補足↓
私が東京人なので、東京から埼玉へ移住した設定で書かせて頂きましたが、固有名詞を出すのもどうかと思いましたので"うみなし県"とさせて頂きました。決して埼玉を皮肉している訳では御座いません、作品の一設定としてお読み下さい。

カナメ




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