12
「ふわぁ、」
「あれ幸村ってば寝不足?」
「ハッ!なまえ殿!!おはようござりまする!!この幸村、昨晩佐助達と…」
「はーい旦那、それ以上喋っちゃダメでしょ?」
昼食前に散歩(伝説の護衛付き)から帰ってくると、大欠伸をかましている幸村と鉢合わせた。
寝不足らしいので理由を聞けば、佐助がそれを制し幸村を連れてどこかへ行ってしまった。
「なにあれ」
「≪さあな。それよりもなまえ、手洗いとうがいを済ませよう≫」
ずっと左斜め後ろに控えていた小太郎に聞いても、はぐらかされてしまった。可愛く小首を傾げてくれたので、ここは小太郎に免じて深く追求しないでやろう。
そうして昼食を取る時も、どこか余所余所しい武将達に気付かないフリをしてあげた。なんて優しい私。
でもやっぱり何だか気になって仕方がないので、夕食を作っている小十郎の手伝いをしている時に、それとなく聞いてみることにした。
「小十郎、今日誰かの誕生日?」
「なんだ突然。誰かが誕生日という話しは聞いていないが」
駄目だった。
結局上手い具合にこき使われ、夕食の時も分からず終いだった。
みんなは絶対何かを隠している。それは分かっているのに、その何かが分からなくてモヤモヤした。
お風呂に浸かりながらゆっくり考えていたけれど、何も思い浮かばないうえに逆上せてしまいそうだったので、すぐに上がってしまった。
「あれ、みんな何してるの?」
ホカホカの身体と一緒に居間に戻ると、八人が仲良く円を組んで座っていた。
少しだけ気味の悪い光景だと思ってしまったのは、秘密にする方向でいこう。
「さあさ、なまえちゃん!こっちに座って!」
慶次に促されるがまま、私もその円に加わる。右手に慶次、左手に元親って何というか少し筋肉臭い。
真正面にいる政宗に、なんで俺の隣に来ねえ、と言われたがそんな事私に言われても困る。
政宗だけじゃなく、幸村も文句を垂れていた。これについては私ではなく佐助に訴えていた訳だけれども。
「で、円陣なんて組んじゃって、何するつもり?」
私がいうとニヤニヤしている武将達は慶次の、せーの、という掛け声で一斉にクラッカーを鳴らした。何処に隠し持っていたのか、突然のクラッカー音に多少驚かされる。
「わ、びっくりした」
「おいなまえてめえ、それで驚いてんのかよ」
元親が呆れた様子を見せる。それを眺めていると今度は小十郎がどこからかケーキを持ち出してきた。
「え、ちょっと、私の誕生日まだまだなんだけど?」
「勘違いすんなよ、なまえのBirthdayを祝ってるんじゃねえんだ」
じゃあなに、と聞こうとすると後ろから佐助に口を塞がれる。何時の間に後ろに移動したんだ、なんて忍の彼に聞くのは愚問だろうか。
耳元で、そのまま黙って聞いてて、と心地よい低音が響いた。
「なまえ殿にお世話になり始めてから、今日で一月が経ったので御座るよ!」
「それで政宗様たちと、なまえに何か礼がしたいと考えた」
目の前にはニコニコと笑っている武将達と、大きなケーキ。
それを見て、私の顔はどんどん綻んでいく。
「≪なまえにはいつも感謝している≫」
「我らの気持ちぞ。受け取れ」
そうして目の前に差し出されたのは、何かの鉢。
アマリリスか何かか?色々と考えたが、まだ土とその中心でひょっこり顔を出した芽だけでは到底分からなかった。
「これ、なんの鉢?」
「まだSecretだ。育ててみたら分かる」
「なにそれ、気になる」
鉢の中身について聞いても、誰も教えてはくれなかった。元親が、おら飲むぞ、と言うのをキッカケにお酒を飲み始めた。
ケーキは甘すぎずサッパリしていて、お酒のつまみにもなった。誰が作ったのかと聞けば、幸村と佐助と元就らしい。
「それにしても、このケーキ本当によくできてるね」
「口に合うようで良かったよ」
幸村はとっくに寝ていて、元就は酔っ払った元親に絡まれているので、佐助が答えた。
頬の筋肉が緩みっ放しの私に気を良くしたのか、いつもよりも距離を詰めてきた佐助をかわしながらお礼をいった。
「ちぇ、ガード堅いってば」
「佐助が横文字使っても違和感ないね」
「まあた、そうやってはぐらかすんだから」
佐助は怒っているんだか嬉しいんだかよく分からない表情のまま幸村の介抱に向かった。
フリーになった私のところに今度は政宗がやってきた。
「 Honey、喜んでもらえたか」
「蜂蜜じゃないけど、すごく嬉しいよ。ありがとう」
酔っ払ってるのか、思い切り距離を詰めて吐息混じりに聞かれた。いや、酔っ払っていなくとも政宗ならやりかねない行動だが。
「俺とhoneyの一ヶ月記念日だ。盛大に祝わなくちゃだろ?」
「うん何言ってるのかよく分からないです。あと蜂蜜じゃないって何度言えば…」
私が続きを言おうにも、言葉が発せられることはなかった。意識は自分唇へと集中していて、政宗にキスされているのなんてすぐにわかった。
「 Honeyは甘いな」
「…………ろ」
「 Ah? どうしたhoney、俺とのkissで感動してるのか?」
「…今すぐ土下座しろ、と言ったんだけど聞こえてなかったみたいだね」
別にイケメンな十代男子にキスされるくらいどうってことないのだ。そう、TPOさえ守ってくれればどうってことないのだ。
見よ、この殺伐とした雰囲気。辺りを漂う怒気。周りからの強烈な視線。
みんなの目の前でキスするなんて、一体どうしてくれよう。
「今すぐ土下座して切腹しろって言ったの、聞こえた?」
「 w,wait!! 何かとんでもねえのが増えてるぜhoney!? 」
「なあに、政宗クン」
「 Sorry!! なまえ、悪かった!この通りだ!!」
どんどん青ざめていく政宗をさらに追い詰めると、ゴリゴリと額を床に押し付け始めた。ソーリィソーリィと謝っている政宗を見て、辺りの怒気は収まっていった。
「政宗様、おいたが過ぎますな。どれ、小十郎と少しお話しを致しましょうぞ」
眉間にいつもの倍の皺を刻んだ小十郎が、政宗をズルズルと引きずっていったところでこの話は終わった。
「俺様は避けた癖に、竜の旦那にはやすやすと接吻させちゃうんだもんなあ」
「え?切腹?」
「あはーなんにも言ってないよー」
しかしさっきの小十郎、眉間に皺寄せたまま笑顔をつくるなんて本当に器用だよね。
そう言った私に、呆れた視線を投げ付ける元親と小太郎には気付かなかった。
12記念日
(あいつって抜けてるよな)
(≪放っておけない≫)
(でも散歩にまで着いてくのはどうかと思うぜ)
(≪いつ襲われるかわからない≫)
(過保護にも程があんだろ)
−−−
実は前話で一ヶ月だと思ってたヒロインですが、本当は今日だったみたいです。
少し筆頭寄りになってしまいましたが、これからも色んな武将たちと絡ませていけたらと思っております。今回はその序章です。
カナメ