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あの奇妙な事件が起きてから早一月が経った。事件というのは言わずもがなアレだ。某戦国アクションゲームの某武将達が所謂逆トリップをしたというアレ。
数週間前に渡したこくごドリルやさんすうドリルはもう半分ほど埋まっていて、それぞれが現代に慣れてきていた。
朝食と夕食だけではなく昼食をとるようにもなったし、それぞれが何処かへ遊びに行くことも多くなった。幸村や慶次なんかは毎日公園へ出かけては地元の小中学生達とサッカーをしたりバスケをしたりしているらしい。
そうしてもう一月経ったのだ。いやはや早いものである。
私はというと、脱フリーターをしてからはずっと家でだらけ切った生活を送っていた。
と言うのも全て過保護な武将達のせいである。
「あ、なまえちゃんもう起きたの」
「おはよう佐助、たまには早起きしないとね」
いつもより早く目覚めた私は、廊下を雑巾掛けしていた佐助と出くわした。いつもこんなことしていたのか、と少し驚く。
佐助は、早起きって言う時間じゃないんだけど、とブツブツ言いながら止めていた手を動かし始めた。
居間に移動すると政宗と元親がテレビゲームで遊んでいた。それを横目に用意されていたサンドイッチと冷め切ったコーヒーにありつく。
「 Good morning、なまえ」
「今日は早ぇんだな」
赤と緑の配管工とその仲間たちがカーレースをするゲームに夢中になっている筈なのに、こちらに気付いた眼帯コンビニ少しだけ驚きつつも、おはよう、と返した。
ふと庭を見遣れば、小十郎が植木の手入れをしているのが伺えた。その植木の近くにはパンクズを蒔いたのか、スズメ達がチュンチュンと集まっている。
「ねえ政宗、あれなに」
「 Ah? 小十郎のあれなら米沢城にいた時からやってるぞ。餌がパンに変わったぐれぇだな」
ゲームをしながら器用に答える政宗よりも、スズメ達と戯れている小十郎に驚いた。なにやってるの可愛い。
癒し系な小十郎を眺めつつサンドイッチを食べ終わった私は、茶の間に移動してもう少し惰眠を貪ることにした。
「あれ、元就こんなとこで何やってるの」
「……日光浴ぞ」
「自分の部屋でやればいいのに、せっかく縁側ついてるんだから」
茶の間に入ると窓際で胡座をかいている元就と出くわした。
思った疑問をそのままぶつけると元就が、あれ、と指差した。その方向を見ると、さっき癒しを提供してもらった小十郎とスズメ達。
「ふふ、あれ可愛いよね」
「あれが可愛いかは甚だ疑問ではあるが、まことに見物よ」
どうやら元就は私と違い、あの光景をみて楽しんでいるらしい。元の世界に戻った時にネタにされないか少し心配になった。
元の世界と言えば思い出した事がある。
この間の夕飯時にみんなでその話をした。どうやってここに来たのか、またどんなタイミングで、ここに来る前どんな行動をしていたのか…。
みんなに聞いてみるとそれぞれに共通するポイントがあった。
「元就はさ、その"動物"に見覚えないの?」
「スズメなどいくらでも見る」
「そうじゃなくて、ここに来る前に見た"動物"に」
そう、みんなはここに来る前に何かしらの動物を見ているらしい。
幸村は虎、佐助は猿、政宗は龍、小十郎は鼠、慶次は馬、小太郎は鳥、元就は兎、元親は牛、といった具合に。政宗に至っては幻だと思ったんだけど、どうやら本物を見たらしい。(私も見てみたいと思ったのは内緒)
そして気付いたのは、みんな干支の動物だってこと。だとしたら、あと四人足りないってこと。
「安芸に兎はおらぬ」
確か戦国時代における兎って、内陸国では食用だったような気がする。
そんなことはどうでもいいけど、やっぱり干支について考えても答えが出てこない。
「干支に拘らない方がいいのかなあ…」
そう言って、元就の足の上に頭を落とした。鬱陶しそうな反応をしても、どこか嬉しそうな面持ちの元就を見てからそっと目を閉じた。
干支だとしてもあと四人も増えるのは遠慮願いたい。そんなのは起きた頃にはとっくに忘れていた。
11非日常
(なまえよ、我はこのままでも…)
(あらら?一国の主がそんなこと言ってもいいの?)
(……忍か)
(俺様達には帰るべきところが…)
(黙れ忍。我は我のしたいようにするだけぞ)
((こりゃ重症だ。俺も人のこと言ってられないんだけどねえ))
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干支のネタは某ゲームからヒントを頂きました。
いろいろとフラグを立てていますがまだまだ終わらせるつもりはないのでご安心下さいませ。
カナメ