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私は、またか…、と呟いた。
ここ最近気付いたことがある。それは風魔小太郎の"監視"である。監視というと少し硬いイメージになってしまうが、他に言葉が見つからない。
私が寝ようとすると天井から既視感。はじめは気のせいだと思ったが、それが何日も続けば確信へと変わっていった。
そして元就からの密告。寝る時にはいたはずの伝説の忍が、夜中に目を覚ますといなくなっていたという。以前"夜は全員おとなしく部屋で寝ること"と決めたのに、小太郎はいなくなるらしい。
しかしどうにも、おかしいのだ。伝説とも言われているこの男の気配、一般人である私は普通気付くはずがないのだ。まるで"気付いてください"と言っているかのような…。そうして私は今日の昼間に考えて思いついたのだ。小太郎は私に気付いて欲しいんじゃないかって。
今夜が決戦だと思った。
「小太郎、いるんでしょ?」
ベッドの中から天井へ声をかけるが、その後に続くのは沈黙。そのまま三分ほど待っていたがその沈黙が終わることはなかった。
「いるのは分かってるんだからね」
そう言っても、返ってくるのは沈黙のみ。もうこのまま放っておこうか、とも考えたが毎晩この既視感を感じながら眠りにつくのはもう嫌だと思った。
「ああもう、おいでってば」
言うや否や、黒い影が私の上に降ってきた。突然の事で少しだけ驚いたが、降ってきたそれは思ったとおり小太郎で少しだけ安心した(実際知らない忍だったらどうしようかと考えていた)。
「毎晩毎晩、なにやってたのよ」
私の上に跨がっている小太郎に問えば、すぐにキョロキョロとしだして最後に私に目を合わせた。
「≪なまえの、見張り≫」
「は…?」
驚くことに、この男は私の見張りをしているという。それはつまり私の命が心配なのだろうか、はたまた私が変な行動をしでかさないか心配なのだろうか、小太郎の忠誠心から考えるに恐らく前者だろう。
しかし小太郎ってば何を考えているんだろう。前にも武将達に伝えたように、現代の私達の生活圏で命を脅かすような危険はほぼ存在しないのに。
そう伝えれば、小太郎はフルフルと首を振る。そうして愛おしそうに私の頬を撫ぜる。
「≪なまえの貞操、守るため≫」
そうして私は今晩二度目の、は…?、を零した。
「っていうことがあったんだけど…」
「 実はアンタがHoneyの操を狙ってたんじゃねえのか」
「そうそ、伝説ってばムッツリだもんね」
「こらこら小太郎を悪者にしないの、それから蜂蜜って呼ばないで」
翌朝、朝食を食べ終わった後の食休みで、何気なしにその話をしてみたらみんなの反応は凄まじかった。
幸村は途中から、おなごのへやにはいるなど…、とブツブツ言いだすし、政宗と佐助は小太郎を悪者にしよと必死だしで大変だった。
ああこんなこと話すんじゃなかった、と政宗達から視線をそらせば慶次と目があった。瞬間、身体中の毛穴がブワッと開く。あれ、なにこの笑顔、目が全く笑ってないよ。
「それでなまえちゃん、そのあと風魔とは好い事したのかい?」
目が据わっている慶次に脅すように問われる。その問いによってみんなから注がれる視線、沈黙。その視線は好奇でもなんでもなくて、怒りに近いようなもの。
「そんなに睨まないでよね。第一続きって言ったって、キスの一つもしてないんだから」
「なまえ、鱚ってなんだ」
「Hey長宗我部、そいつぁ魚じゃなくて接吻のことだ」
「せ、せっ、せっぷんなど、は、はれ、はれ…!」
それぞれが様々な反応を示した最後に幸村が鼻血を噴いてぶっ倒れた。
結局その後は気絶した幸村の介抱やら飛沫した鼻血の後片付けに追われ、この話は流れた。
はずだった…。
「で、接吻してたら続きをしてたってことか」
「ちょっとまだその話引っ張るつもり?」
夕食を作っている小十郎の手伝いをしていた時に、何を思い出したのか不意に今朝の質問の続きをされた。
キスしてもしていなくても、付き合ってもいない男とそんなことしないだろう。していたとしたらよっぽどの阿婆擦れか売女ぐらいだと思う。
「私は娼婦でもなんでもないんだから」
そう言うと少し罰の悪そうな顔をして、そう言いたかった訳じゃねえ、と謝ってきた。どうやら小十郎は私の心配をしてくれていたらしい。そうならそうとハッキリ心配してくれればいいのに、と言えば今度は目を逸らされてしまった。なんだツンデレか?ツンデレは一人で充分だ(と思ったが、そもそも我が家にツンデレなんていなかった)。
「伝説だって立派な男なんだよ」
「佐助、急に後ろから話しかけないでよ」
「だったらもっと驚いたらどうなのさ」
ツンデレな小十郎の反応を楽しんでいたら佐助がやってきた。驚けと言われても、冷静が売りなので私には無理なお題だ。
「男はみんな狼なんだって」
「佐助も狼?」
「俺様は忍だから、女を犯そうなんて気は起こさないよ」
「じゃあ小太郎も忍だから、狼じゃないわね」
「あ…」
佐助とはよくこういった屁理屈合戦をすることがあるが、大抵は佐助が負ける。なんでも、肉体的拷問は得意だが精神的拷問は慣れてないらしい。いやこれは拷問という要素は全く含んでないのだけれど。
「おい、飯ができたぞ」
そうして暫く小十郎の手伝いも忘れて佐助と遊んでいたら、夕食が出来たと知らされた。リビングには八人の武将。いつものようにみんなでいただきますをして、おいしい料理にありついた。
付けっぱなしのテレビから流れる午後のニュースには、誰も気に止めなかった。
10家族
(前田よ、貴様は今朝から暗いな)
(そういう元就は今朝から空気だねえ)
((此奴、我を愚弄するか…!))
(はあ、俺達が思ってる程なまえちゃんは子供じゃないんだね)
(…当たり前ぞ。しかしなまえは甘えというものを知らぬ)
(なんだかなあ…)
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前話に建ててあったフラグを回収しました(@天井からの視線)。
そして元就が空気だったのでオマケに登場。慶次は軟派者に見えて、実は恋愛を誰よりも重んじていたらいいな、というカナメの妄想の産物。
カナメ